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結論から言えば、特許が取れるのは「発見」そのものではなく、発見をどう生かすかを形にした「発明」です。どれほど偉大な発見でも、それだけでは特許の対象になりません。また、論文や学会で先に発表すると特許が取れなくなることもあるため、発表の前に出願の順番を考えておくことが大切です。
2026年のノーベル生理学・医学賞は、光で開閉するイオンチャネルと、光で脳の神経細胞の活動をオン・オフする「光遺伝学」に関する発見に贈られました。受賞者3人のうち、ゲオルク・ナーゲル氏とペーター・ヘーゲマン氏の2人は、20年以上前の2002年に、見つけた仕組みの「使い方」について、発明者として特許出願をしていました。
この出願は、「発見」と「発明」の違いを考えるうえで、とても分かりやすい例です。
特許の対象になるのは「発明」です。法律上、発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」とされています(特許法2条1項)。
発見そのものも、もちろんすごいことです。ただ、発見をしただけでは、それ自体は何の価値も生み出しません。それはノーベル賞のような偉大な発見でも同じです。その発見をどう生かして、世の中、社会に還元できるか。そこが特許の対象になり、非常に大事なところです。
これはいつも私が言っていることですが、アイデア自体に価値はなく、アイデアを形にして初めて価値が生まれると考えています。
アイデアは、単に頭の中にある状態です。それを形にして他の人に提供し、他の人がそれによって恩恵を受けることで、初めて価値が生まれます。発見と発明の関係も、これと非常によく似ています。
新しいアイデアを生み出すことは、非常に素晴らしいことです。それが特許として取れるのであれば、もちろん良いことです。ただ、実務的に言えば、単なる思いつきのアイデアには、全然価値がないのです。
すごい発見をしたから特許が取れるはず、という相談は、実はそれほど多くありません。誰にとっても、新たな発見はなかなか難しいものです。
よくあるのは、新しいアイデアを思いついたので特許を取りたい、という相談です。ところが大概の場合、同じアイデア、同じようなアイデアは、すでに世の中に存在しています。調べてみると、何年も前に公開されていたり、日本ではなく海外に実は存在していたりすることも、意外とよくあります。
これは特許に限りません。デザインでも、意匠登録を取りたいと持ってこられたものが、すでに海外に似たものがあった、ということはよくあります。
アイデアがすでにあった場合は、どういうものが公開されていたのかを、率直に具体的にお伝えするしかありません。
では、そこで諦めるのか。そうではありません。そこからどう派生させたり、深掘りしたりして、どのような特徴を出して新たな発明にするか。そこが非常に大事です。諦めたらそれまでですが、もう一歩先に進んだ形に昇華させることが大事だと考えています。
研究者にとって、論文と特許はどちらも大事なものですが、役割がまったく違います。

特許は独占できる権利を取るための手続きなので、その発明・発見で、どれだけ経済的な価値を見いだせる可能性があるかが重要です。世の中にどれだけ経済的な価値を提供できるかを見据えて、特許出願するべきかどうかを判断するのがよいと思います。
研究者や開発者は、特許の知識や経験も豊富な方が多いので、失敗することはそれほど多くありません。ただ、私自身ずっとライフサイエンスの研究者でしたので、その業界の温度感は一定程度分かります。アカデミックの研究者は、特許出願よりも論文の投稿の方に熱があるのです。
一刻も早く論文を出して公表したい。その気持ちから、特許出願より先に公開してしまったり、学会の要旨を先に出してから出願してしまったりするケースがあります。
大体の場合は、新規性喪失の例外の適用(特許法30条)で対応できます。ただし、この例外を使えるのは、公開した日から1年以内に出願し、所定の手続きをした場合に限られます。また、海外ではこうした例外がない国や、条件がより厳しい国もあるため、外国でも特許を取りたい場合は、先に公開したことで取れなくなることがあります。ただ、同じような研究をしている人が世界中に複数いることも少なくありません。そういう場合は、例外の適用を受けても特許が取れなかったり、特許が取れても無効理由がある特許になってしまったりしかねません。注意が必要です。
特許については、弁理士に、できるだけ早い段階で相談していただくのがよいと思います。
ノーベル賞の受賞者が、見つけた仕組みの使い方で特許出願をしていたこと。これは非常によくあることです。たとえばiPS細胞でもノーベル賞が出ていますが、こちらもかなりの数の特許出願がされていて、その発見が現代の新しい医療につながっています。
そうすることで、助かる命が出てきたり、人類の幸福が実現できたりします。発見が新しい発明に昇華し、それが人々に還元される。非常に良いサイクルになっていますし、そうして技術がどんどん進歩していくのだと思います。
発見と発明は違う、ということは、ぜひ知っておいていただきたいと思います。
もっと身近なことで言えば、アイデアと、それを形にすることの違いとほとんど同じです。発見自体もすごいのですが、それをどう生かせるかが発明になります。アイデアも同じで、単なるアイデアだけでは価値はなく、製品などの形にすることで価値が生まれます。
ぜひ、こうしたサイエンスにも興味を持っていただけるとうれしいです。
Q. 研究ですごい発見をしました。発見しただけで特許は取れますか?
A. 特許の対象は「発明」で、発見そのものではありません。発見をどう生かして世の中に還元できるか、その形にしたものが特許の対象になります。
Q. 思いついたアイデアを調べたら、海外にすでに同じものがありました。諦めるしかないですか?
A. 諦める必要はありません。そこから派生させたり深掘りしたりして、どのような特徴を出して新たな発明にするかが大事です。もう一歩先に進んだ形に昇華させることを考えてみてください。
Q. 特許出願の前に、論文や学会で発表してしまいました。もう特許は取れませんか?
A. 大体の場合は新規性喪失の例外の適用で対応できます。ただし、公開から1年以内に出願し、所定の手続きをする必要があります。ただ、同じような研究をしている人が世界中にいる場合は、特許が取れなかったり、無効理由がある特許になったりしかねないので、注意が必要です。
Q. 特許出願を考えています。いつ、誰に相談すればいいですか?
A. 弁理士に、できるだけ早い段階で相談してください。その発明でどれだけ経済的な価値を提供できるかを見据えて、出願するべきかどうかを判断するのがよいと思います。
Q. まだアイデアを思いついただけの段階です。それでも特許の相談をしていいですか?
A. 単なる思いつきのアイデアのままでは、特許にはなりません。特許の対象になるのは、アイデアを世の中に生かせる形にした「発明」です。まずは同じアイデアがすでにないかを調べ、どのような特徴を出せば新しい発明になるかを、弁理士と一緒に整理することをおすすめします。
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この記事はYouTubeチャンネル「どんぐり特許商標事務所【弁理士 西山玄一郎】」のショート動画をもとに、動画では触れられなかった内容まで掘り下げて作成しています。
記事の執筆者

西山 玄一郎
にしやま げんいちろう
どんぐり特許商標事務所/代表弁理士
弁理士登録番号 第22420号
大手製薬会社で創薬研究、知的財産部で特許・意匠の出願・調査・訴訟に従事し、米国の特許事務所・法律事務所へ留学。ITベンチャーの起業・事業売却、AI創薬ベンチャーのサポートを経て、2021年にどんぐり特許商標事務所を開業。「権利をとる側」と「事業をつくる側」の両方の視点から、個人事業主・小規模事業者の知的財産をサポートしています。

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