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知的財産コラム

特許権

2026/2/9

「少し変えたから大丈夫」のつもりが、特許侵害になることがあります(均等侵害)

新商品を作るとき、競合の特許が気になって調べ、「文言と完全に一致しないからセーフ」と判断して進めていませんか?
ところが実務では、部材を置き換えた・数値を少し変えた程度だと、あとから「中身は同じ」と評価されて侵害になることがあります。
この“回避したつもりが通用しない”考え方が 均等侵害 です。
本記事では、この均等侵害の概念をわかりやすく解説し、中小企業知財戦略に活かせる具体的な対策を弁理士が提言します。

1. 特許侵害はまず「請求項(特許請求の範囲)」で決まる

特許権は、発明を独占的に実施できる権利です。
そして「どこまで独占できるか(権利範囲)」は、出願書類のうち 請求項(特許請求の範囲) によって決まります。

✅ 請求項(特許請求の範囲)とは

  • 特許の権利範囲を“文章”で定めたもの

  • 発明を構成する要素(部材・工程・条件など)が書かれている

  • 原則として、その要素をすべて満たす行為が侵害になります

✅ 明細書とは

  • 発明の内容や背景、作用・効果などを詳しく説明した書類

  • 請求項の意味を解釈するときの重要な手がかりになる

  • 裁判でも、請求項の文言をどう読むか(解釈)に影響します

ポイントは、侵害判断は「雰囲気」ではなく、まず 請求項の文言 から始まるということです。

2. 原則:1つでも要素が違えば侵害にならない

特許侵害は基本的に、「請求項に書かれた要素を全部満たしているか」で判断します。
そのため、請求項の要素が1つでも欠けていれば、原則として 非侵害 になりやすいです。

例:原則どおりなら「非侵害」になりやすいケース

特許:

”「60℃以上の水飴」と「イチゴシロップ」を混合し、冷却して製造したアメ”

第三者:

”「60℃以上の水飴」と「メロンシロップ」を混合し、冷却して製造したアメ”

この場合、請求項の要素の1つである「イチゴシロップ」が一致していないため、
原則どおりに見れば非侵害になりやすい、ということになります。
ここまでが、多くの方がイメージしている「特許侵害の判断」です。

3. 例外:文言が違っても侵害になる「均等侵害」とは

ところが、現実のビジネスでは「文言を少し外す」工夫はよくあります。
たとえば次のような“回避”です。

  • 数値条件を少し変える(60℃→59℃など)

  • 部材を近いものに置き換える(A→A’など)

  • 工程の順序や呼び方を変える(ただし中身は同じ)

このように文言上は外れていても、裁判で 実質的に同じ と評価されると、侵害と判断されることがあります。これが 均等侵害(均等論) です。

均等侵害をざっくり言うと

”「文章は違うけれど、中身は同じなら侵害とみなすことがある」
という考え方です。”

「請求項から少し外れている=絶対に安全」と言い切れない理由が、ここにあります。

4. よくある誤解:回避設計した“つもり”が危ない

均等侵害でトラブルになりやすいのは、次のような判断が入るときです。

誤解①:「1つ違うから大丈夫」

請求項を読んで、要素が1つ違うことを確認して安心する。
しかし、違いが“形式的”にすぎないと、均等侵害の土俵に乗ります。

誤解②:「材料を変えたから別物」

材料や部材を変えても、

  • 実現している機能

  • 得られる効果

  • 技術的な考え方(仕組み)

が実質的に同じなら、均等侵害のリスクが残ります。

誤解③:「数値を少しズラせば回避できる」

数値条件(温度・寸法・濃度・割合など)を少し変えても、
その違いが発明の本質に関係しないなら、均等侵害が争点になり得ます。

5. 【弁理士からの提言】均等侵害で“侵害と言われない”ための実務対策

均等侵害が厄介なのは、「請求項の文言から外れている=安心」とは言い切れない点です。だからこそ中小企業は、商品化を進める前に、最低限のチェック手順を持っておくことが重要です。ここでは、取り組みやすい対策を2つに絞って紹介します。

対策1:侵害判断は“雰囲気”で終わらせず、要素分解してメモを残す

「ここが違うから大丈夫」と口頭で判断してしまうと、後から社内でも説明できず、外部に相談する際も話が進みにくくなります。おすすめは、請求項(特許請求の範囲)を要素ごとに区切り、各要素について次の3点だけを短くメモすることです。

  • 自社製品はその要素に当たりそうか(当たる/当たらない/不明)

  • 当たる場合、どの部分が対応するのか(部材名や仕様)

  • 当たらない場合、どこが違うのか(数値、材料、形状、工程など)

このメモがあるだけで、判断がブレにくくなり、弁理士・弁護士に相談するときも「どこが争点か」を素早く共有できます。均等侵害が絡むかどうかも、相談の精度が一段上がります。

対策2:量産・販売前に専門家へ(“設計が固まる前”が一番安い)

均等侵害は、請求項の解釈や技術内容、過去の裁判例の考え方が絡み、一般論だけで安全判断をしにくい分野です。販売後に警告を受けると、仕様変更・作り直し・在庫・取引先対応など、損失が大きくなりがちです。
そのため、理想は 試作〜仕様確定の段階で一度、専門家にリスク評価を依頼することです。結果として、最小の手戻りで済み、最も費用対効果が高くなります。