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2025/12/25

企業活動の中で、著作権トラブルは決して他人事ではありません。
カタログやマニュアル、Webサイト、展示会資料など、日常的に扱う表現物の多くが著作権と深く関わっています。一方で、「出典を書けば大丈夫」「少し変えれば問題ない」といった誤解も依然として多く見られます。
本記事では、企業実務で押さえておくべき著作権の基本と、特に注意したい5つの典型的な誤解をわかりやすく解説します。
著作権リスクを正しく理解し、安心して事業を進めるための判断材料としてご活用ください。
「展示会で配布した技術資料の一部デザインが、以前取引先から提供された資料と類似していると指摘された」
「自社製品の取扱説明書に使用したイラストが、実は著作権フリーではなかった」
このような著作権に関するトラブルは決して珍しくありません。思わぬところで著作権問題に直面することがあります。
企業活動において、カタログ、マニュアル、技術資料、Webサイト、展示会資料など、様々な著作物を日常的に扱います。しかし、著作権に対する認識は必ずしも十分とは言えません。
著作権法は制度が複雑で、判断基準が明確でなく曖昧なため、分かりにくいと感じることが多いでしょう。そこで本記事では、著作権の基本的な考え方と、よくある誤解について解説します。企業活動における適切な判断の一助となれば幸いです。
著作権とは、文芸、学術、美術、音楽などの分野における人間の創作的な表現を保護する権利です。企業活動の中でも、様々な著作物に関わることになります。
例えば、以下のようなものが著作物となり得ます。
技術文書・マニュアル
取扱説明書、メンテナンスマニュアル、設計仕様書、技術解説書などは、文章や図表など
製品カタログ・パンフレット
製品の紹介文、撮影した製品写真、レイアウトデザインなど
図面・設計図
CADデータや設計図面、組立図など。ただし、純粋な技術的機能を実現するためだけの図面は、著作物性が否定されることもあります。
ソフトウェア・プログラム
製品組込みソフトウェア、生産管理システム、設計支援ツールなどのプログラム
ウェブサイト・コンテンツ
企業ウェブサイトのデザイン、掲載文章、画像、動画など
展示会資料・プレゼン資料
展示会で配布される資料やプレゼンテーション資料
著作権は、創作した瞬間に自動的に発生します。特許や商標と異なり、出願や登録などの手続きは不要です。また、©マーク(著作権表示)の有無も権利発生の要件ではありません。つまり、自社で作成した資料やデザインも、作成した時点で自動的に著作権による保護がされることになります。
同様に、他社が作成した資料や画像なども著作権で保護されていることを認識する必要があります。「出典が不明だから自由に使える」という考えは誤りです。
著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年間(2018年12月30日の法改正以前は50年間)です。法人著作(会社名義の著作物)の場合は、公表後70年間となっています。この保護期間が経過すると、著作物は「パブリックドメイン」となり、誰でも自由に利用できるようになります。
著作権というのは一つの権利ではなく、著作権の中には、様々な権利が含まれています。企業活動に特に関連の深いものとしては以下の権利があります。
複製権(著作権法第21条)
資料のコピーやスキャン、データのダウンロードなどが該当します。他社の技術資料を無断でコピーすることは、この複製権の侵害となります。
公衆送信権(著作権法第23条)
ウェブサイトへの掲載やメール送信などが該当します。他人が作成した画像をSNSに投稿することも、公衆送信権の侵害となる可能性があります。
翻訳権・翻案権(著作権法第27条)
インターネット上の記事を翻訳したり、他人が作成した画像をベースに自社用にアレンジしたりする行為が該当します。
同一性保持権(著作権法第20条)
著作者人格権の一つで、著作物を勝手に改変されない権利です。外注で作成してもらったイラストやデザインを勝手に改変することは、この権利を侵害する可能性があります。
自社で作成した著作物については、これらの権利を適切に管理・活用することが重要です。一方、他社の著作物を利用する際には、これらの権利を侵害していないか注意が必要です。
次に、よくある著作権の誤解について見ていきましょう。
著作権についての誤解は数多くありますが、ここでは特によく抱きがちな5つの誤解について詳しく解説します。これらの誤解を解くことで、著作権との付き合い方がより明確になるでしょう。
「全ての表現物には著作権がある」と思っている方が少なくありません。確かに、著作権は様々なものに発生します。文章、イラスト、写真、音楽、建築物、振り付けなど、ありとあらゆる創作的表現物が著作物となり得ます。日常で著作物に接しない日はないとも言えるでしょう。
しかし、全ての表現物に著作権があるわけではありません。著作権法で保護されるのは「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、以下のようなものは著作権法の保護対象とはなりません。
事実やデータそのもの
例えば、「兵庫県の人口は約530万人である」という事実そのものや、分析結果の値、株価、気象データなどの単なる事実やデータは著作権の対象ではありません。これらを記載しただけの文章も同様です。
ありふれた表現
「お元気ですか?」「よろしくお願いします」などの日常的なあいさつや定型的な文章、誰が書いても同じようになる表現は、創作性が認められないため著作物とはなりません。
アイデアや着想
小説のプロット、発明のアイデア、ビジネスモデルなど、表現の背後にあるアイデアそのものは著作権では保護されません。保護されるのはあくまでも「具体的な表現」です。イラストの作風も著作物ではありません。
極めて簡単な図形やデザイン
単純な円や四角形、直線などの基本的な図形や、非常にシンプルなロゴマークなどは、創作性が認められないケースがあります。例えば、アサヒビールのAsahiロゴマーク事件(東京高裁平成8年1月25日判決)では、デザイン書体は文字の字体を基にした表現形態であるが、文字自体は万人共有の文化的財産で実用的機能を持つため、著作物として保護されるには、美術著作物と同視できる程度の美的創作性が感得される場合に限られる、として著作物性が否定されました。
(Asahiロゴマーク事件 原告標章)
法令、裁判例、行政機関が作成した広報資料等
法令、規則、判決、決定、命令などの公文書には著作権が発生しません(著作権法第13条)。
たとえば、顧客対応マニュアルを考えてみましょう。「お客様への挨拶、要件の確認…」という基本的な対応項目や「笑顔で挨拶し、お客様のご用件をお伺いする」といった一般的な対応手順の記載には著作権が発生しません。しかし、独自の表現や工夫を凝らした応対話法の解説、マニュアルに添えられたオリジナルの研修資料や図解には著作権が発生します。
「何でもかんでも著作権がある」という考えは誤りであり、全ての表現物に対して著作権が当たり前に発生していると考えるのではなく、本当に著作物性があるかどうかをまずは考えてみるようにするとよいでしょう。
著作権法の一番難しいところは、侵害と非侵害の境界線が曖昧なところです。「この程度なら大丈夫」「これは絶対にアウト」と明確に判断できればよいですが、実際にはそう単純ではありません。
多くの方は「このようにすれば著作権の侵害にならない、逆にこのようにすれば著作権の侵害になる」と明確に区別できると思っているかもしれません。実際には、著作権の侵害と非侵害の間の大半はグラデーションのかかったグレーゾーンであり、明確な境界線は存在しません。侵害かどうかを最終的に判断するのは裁判所の役割であり、逆に言えば、裁判で判決が出ない限りは絶対的な境界線はない、ということになります。

例えば、自社の広告チラシが他社の広告デザインに影響を受けている場合、どこまでが「参考」でどこからが「模倣」なのかは、非常に判断が難しい問題です。要素の共通性、表現の独自性、利用の目的・態様など、様々な要素を総合的に考慮して判断する必要があります。
著作権の専門家同士でも判断が分かれることがよくあります。同じ事案でも、白寄りのグレー(侵害に該当する可能性が低め)と考える専門家もいれば、黒寄りのグレー(侵害に該当する可能性が高め)と考える専門家もいます。
では、ここで以下の左右のイラストや写真は類似でしょうか?考えてみてください。

(出典:マンション読本事件判例添付文書より)

(出典:みずみずしいスイカ事件判例添付文書より)
どちらも著作権の判例で有名な事件です。最初の女性のイラストは、『原告イラストの顔の表情・髪型・ポーズ・衣服のディテールは、被告イラストと「質的に異なる」ため、鑑賞者が原告イラストの具体的な個性を直接感じ取ることはできない』として、類似性が否定されました(大阪地裁平成21年3月26日判決)。
次に、スイカの写真は、『原告写真と被告写真は素材(西瓜・籠・氷)と配置・背景色が「著しく似ており相当な偶然とは言い難い」として実質的に類似』として、類似性が認められました(東京高裁平成13年6月21日判決)。
いかがでしょうか?このように、単に2つの画像を並べて似ているかどうかを個人的な感覚だけで判断したとしても、裁判では様々な要素を総合的に踏まえて判断されるため、自分の判断とは異なる判断がされる可能性もあります。
このような明確でない状況では、できるだけ「白寄りのグレー」に近づけるよう心がけることが重要です。つまり、他者の著作物を利用する際には、ベネフィットとリスクのバランスを取って、どのような使い方であれば大きな問題になることを避けられるか考える必要があります。
インターネット上では特によく見られる誤解として、「出典さえ明記すれば自由に使える」ということがあります。ブログやSNSで他者の著作物を利用する際に、単に「出典:○○」と記載するだけで十分だと考えている方が一定数見受けられます。
著作権法には、引用であれば他人の著作物を無断で利用することができるという規定(著作権法第32条)があります。しかし、引用箇所の下などに出典を記載さえすれば自由に使えると考えるのは大きな誤解です。
適法な引用をするには一定のルールがあります。引用の要件としては、主に以下のような要件が判例(パロディ事件・最高裁昭和55年3月28日判決など)で示されています。
引用する必要性があること
自分の著作物の内容を補強、説明、例証するなど、引用するための合理的な理由が必要です。単に自分の著作物を魅力的に見せるためや、手間を省くためだけに引用することは認められません。
自分の著作物が主で、引用が従であること(主従関係)
量的にも質的にも、自分のオリジナルの表現が中心で、引用部分はあくまで補助的な役割を果たすものでなければなりません。他者の著作物をほぼそのまま利用し、自分のコメントをわずかに付け加えるだけでは、この要件を満たしません。
カギ括弧などで自分の著作物と引用部分が区別されていること(明瞭区分性)
引用部分と自分の著作物とを明確に区別できるように、引用部分を括弧でくくったり、線で囲ったりするなど、誰が見てもどこからどこまでが引用元の著作物であるか明確にする必要があります。
出所の明示をすること
著作者名、著作物のタイトル、出版社など、引用元を特定できる情報を明示する必要があります。ウェブサイトからの引用であれば、URLとページタイトルなども記載するとよいでしょう。引用元を明確に特定できれば良く、具体的に何を記載しなければいけない、といったようなルールはありません。
公正な慣行に合致し、正当な範囲で行われること
引用が社会通念上妥当で、必要最小限の範囲内であることが求められます。曖昧なルールですが、要は “常識の範囲”で引用する必要がある、ということです。
これらの要件を満たさない「引用」は、著作権侵害となる可能性があります。適切な引用であるかどうか判断に迷う場合は、専門家に相談することをお勧めします。
他社のウェブサイトに掲載されている情報やカタログ、展示会資料などを「少し変えて」自社用にアレンジして使用される場合があります。具体的には、自社の新製品カタログを作る際に、競合他社のカタログを参考に、レイアウトや構成はそのままに、文章を一部変更し、写真を差し替えたとします。「同じではないから大丈夫」「丸パクリでなければ問題ない」と考え方です。しかし、このような場合でも、著作権の侵害となるリスクが考えられます。
なぜなら、著作権法には「翻案権」(著作権法第27条)や「同一性保持権」(著作権法第20条)といった権利が含まれているからです。翻案権とは、著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化するなど、元の著作物の本質的な特徴を維持しながら具体的表現を変更する権利です。同一性保持権は、著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されない権利です。つまり、著作権者には、勝手に著作物に手を加えられない権利を有しています。
これらの権利が認められている以上、他社の著作物を「少し変えた」だけでは著作権侵害を免れることはできないのです。
自社オリジナルの資料を作成するには、他社の資料からアイデアやインスピレーションを得ることはあっても、具体的な表現(レイアウト、構成、デザイン要素など)を模倣しないことが大切です。また、外部のデザイン会社やコンテンツ制作会社に委託する場合も、著作権侵害のリスクについて明確に伝えておくことが好ましいでしょう。
最後の誤解は、「誰からも文句が来ていないから大丈夫」、「バレなければ問題ない」という考え方です。他人の著作物を無断で利用していても、特に著作権者などの関係者から何の連絡もない場合、それは法的にセーフだから問題ない、と誤解している人がいます。
この点については、以下の3つのフェーズがあると考えられます。
法的にセーフかどうか
著作権侵害かどうかは、著作権者からクレームがあるかどうかとは無関係です。法的に侵害に該当する行為は、発覚しなくても、クレームがなくても、侵害であることに変わりはありません。ただし、実際には、上述のとおり、そもそも著作権を侵害するかどうかの判断は容易ではありません。
著作権者がどのように思うか
法的には侵害に該当し得るものであっても、著作権者が問題視しない場合もあります。例えば、一般ユーザーによる小規模な利用や非営利目的の利用などは、実害が少ないと判断されることもあるでしょう。また、著作権者にとってメリットのあるような著作物の使い方(例えば、著作権者の商品やサービスの宣伝など)の場合には、法的には著作権の侵害に該当するものであっても、著作権者が問題視しないことも考えられます。これはあくまで著作権者の判断によるものであり、予測することは困難です。
著作権者がそもそも認知しているか
インターネット上の情報量は膨大であり、著作権者が自分の著作物の全ての利用状況を把握することは不可能です。そのため、侵害行為が著作権者に認知されていないケースも多々あります。しかし、これはただ単に「バレていない」だけであって、当然、法的に問題がないわけではありません。
差止請求や損害賠償請求などの権利行使をすることができるのは著作権者です。そのため、著作権者が自身の権利を害されたと感じ、なんとかしたいと思った場合には、警告などをすることが考えられますが、実害が無ければ、放置されることもあります。著作権の侵害だからといって、必ず著作権者から何らかのアクションがあるとは言えないのです。
しかし、いつ発覚するかわからない状況で著作権侵害を続けることはリスクが高いと言えるでしょう。特に以下のような場合は、著作権者からの反応が厳しくなる可能性が高まります。
商業的利用で利益を得ている場合
著作権者のビジネスと競合する利用の場合
大規模または長期間にわたる侵害の場合
著作者の名誉や評判を傷つけるような利用の場合
また、SNSやAIツールの発達により、画像検索技術や類似コンテンツ検出技術も向上しており、以前よりも著作権侵害が発見されやすくなっています。「バレなければいい」という考え方は、技術の進歩によってますます危険な賭けとなっているのです。
このように「著作権者にバレなければ何をしても良い」という考え方は決して正しくありません。著作権法を遵守することは、単に法的リスクを避けるだけでなく、創作者の権利を尊重し、創作活動を支援することにつながります。
著作権に関する基本的な理解と誤解について解説してきましたが、では実際に企業活動においては、どのように著作権に向き合うべきでしょうか。具体的な場面ごとに考えてみましょう。
カタログや広報資料は企業の顔とも言える重要なツールです。著作権の観点から以下の点に注意が必要です。
製品写真の著作権
自社製品の写真でも、撮影をカメラマンやデザイン会社に依頼した場合、著作権の帰属先を契約で明確にしておくことが重要です。撮影された写真の著作権は、特段の契約がなければ撮影者に帰属します。
デザインの独自性
カタログのレイアウトやデザインには著作権が発生します。他社のカタログデザインを模倣することは避け、オリジナルのデザインを心がけましょう。
技術データの取り扱い
製品の性能データや仕様などの事実情報自体には著作権は発生しませんが、それをどのように表現するか(グラフの作り方、表の構成など)には著作権が発生する可能性があります。
展示会やビジネスプレゼンテーションで使用する資料においても、著作権の問題に注意が必要です。
引用の適切な活用
業界データや市場調査結果などを引用する場合は、前述の引用の要件を満たすようにしましょう。特に「出典の明示」と「主従関係」に注意が必要です。
画像素材の利用
プレゼン資料に使用する画像は、著作権フリーの素材を利用するか、有料の素材サイトから適切にライセンスを取得して使用しましょう。特に素材サイトを利用する場合には、利用規約の内容を十分に確認することが重要です。インターネットからの「拾い画像」の使用は避けるべきです。
競合製品の情報
競合他社の製品情報を紹介する場合、事実情報(スペックなど)の利用は問題ありませんが、他社のカタログやウェブサイトから画像や文章をそのまま使用することは避けるべきです。
企業のWebサイトやSNSアカウントの運用においても、著作権への配慮が欠かせません。
Webサイトデザイン
自社Webサイトのデザインが他社サイトと酷似していないか確認しましょう。テンプレートを使用する場合も、正規にライセンスを取得したものを使用しましょう。
SNSでの情報発信
展示会やイベントの写真をSNSに投稿する際、他社の展示物や著作物が写り込む場合があります。可能な限り、他社の著作物が主題とならないよう注意しましょう。
動画コンテンツ
製品紹介やプロモーション動画を作成する際、BGMやナレーションにも著作権が発生します。利用規約を確認した上で、著作権フリーの音楽を使用するか、適切にライセンスを取得した楽曲を使用するようにしましょう。
今回は、企業活動における著作権の気をつけるポイントや、よくある誤解5つを紹介しました。近年では、生成AIの発達と利用拡大に伴い、ますます著作権への関心が高まってきています。著作権について正しい知識を身に付けて、少しでもリスクを抑えながら著作物の利用を行うことが重要です。本記事で紹介した内容がみなさまの企業活動に少しでもお役に立てば幸いです。