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知的財産コラム

著作権

2026/4/30

著作権侵害の「落とし穴」と認定プロセスの危険:日本画家勝訴事例から学ぶ法的リスク

2025年12月に、日本美術界を震撼させた、ある日本画家による盗作疑惑日本美術院が下した処分を不服として提起された処分取消訴訟において、画家側の勝訴が確定したニュースが話題になりました。本記事では、この注目の判例を弁理士の視点から深掘りし、美術品・クリエイティブ業界で問題となる著作権侵害類似性判断に潜む「落とし穴」と、実務的な防御策を解説します。

事件の概要:日本美術院が下した「盗作疑惑」からのその「処分取消」訴訟の経緯

問題となった作品と処分内容

事件の当事者は、公益財団法人日本美術院で40年以上活動し、理事まで務めていたベテランの日本画家Mさんです。約2年前に発表された女性像の日本画について、別の女性から「20年前に自分が描いた作品と酷似している」という申し立てが日本美術院の理事会に対してなされました。

この申し立てを受けて、日本美術院の理事会は作品が類似しているという理由で、以下の重い処分を行いました。

  • 問題とされた作品の撤去

  • 院展への1年間の出品停止

  • 理事職の解任

さらに、これらの処分内容が日本美術院のホームページに長期間掲載されたため、Mさんは「盗作」という烙印を押され、社会的評価と表現活動が著しく害されることになりました。

裁判での争点と判決

Mさんは、日本美術院の処分は違法で無効であるとして東京地裁に訴訟を提起しました。2025年4月の東京地裁判決では、日本美術院の処分は違法かつ無効であると認定され、220万円の損害賠償が認められました。

先日出された東京高裁の控訴審判決でも、基本的に一審判決が維持され、日本美術院の処分は「裁量権の逸脱濫用にあたって違法であり、権利の濫用である」として、220万円の損害賠償命令が確定しました。

裁判所が示した著作権侵害における類似性判断の真の基準

調査プロセスの不備

裁判所が特に問題視したのは、以下の点です。

  1. 表現活動と社会的評価への重大な影響:処分によりMさんの表現活動と社会的評価が著しく害された

  2. 理事会における調査・検証プロセスの問題:十分な調査や説明を聞かずに処分を下した

Mさんは裁判において、制作過程について丁寧に証拠を提出し、どのような資料を基にどういう順番で作品を作り上げていったかを時系列に沿って証明しました。しかし、日本美術院側はその説明を十分に聞かずに処分を下したことが問題とされました。

著作権侵害と処分の妥当性は別問題

今回の裁判の争点

重要な点として、この裁判では著作権侵害そのものが争われたわけではありません。争点は、日本美術院が行った処分が妥当だったか、取り消すべきかという点でした。

実際の作品を見ると、確かに以下の共通点があります:

  • 女性が座っている構図

  • ふわりとしたスカートを履いている

  • 髪の長さが似ている

しかし、服装の細かい部分や背景などは全く異なっており、単純に「盗作」と判断できるものではありませんでした。

仮に著作権侵害が争われていたら

仮にこの事件で著作権侵害そのものが正面から争われていたとしても、侵害が認められる可能性はかなり低かったと考えられます。

著作権侵害の判断基準

類似性と依拠性の重要性

著作権侵害の判断では、主に以下の2点が重要なポイントになります。

  1. 類似性:元の作品の表現上の本質的特徴が、後の作品から直接感得できるか

  2. 依拠性:相手の作品を見たことがあるかどうか(主観的要件)

類似性判断に潜む危険

類似性の判断では、「後の作品を見た時に、客観的にオリジナル作品を思い起こされるかどうか」という基準が用いられます。単に構図が似ている、髪型や服装が似ているというレベルだけで類似と判断してしまうと、同じような構図やポーズの作品は描けなくなってしまいます。

作品が蓄積されればされるほど描けるものがどんどん狭くなってしまうのは適切ではありません。だからこそ、「なんとなく似ている」という印象だけで盗作や著作権侵害と判断するのは適切ではないのです。

著作権侵害の最重要防御策:制作プロセス記録は「盗作ではない」を証明する唯一の客観的証拠

記録の重要性

この事件から得られる重要な教訓は、作品の制作プロセスをきちんと記録として残しておくことの重要性です。これは以下のような作品すべてに当てはまります。

  • 手描きの作品

  • デジタル作品

  • AIを使用した作品

自分がどのように作品を制作したかを客観的に説明できる記録を残しておくことは、今後ますます重要になると考えられます。

記録すべき内容

制作記録として残しておくべき内容には以下があります:

  • 参考資料やインスピレーションの源

  • 制作の各段階における進捗

  • 使用した技法や素材

  • 制作期間と制作場所

  • 第三者による制作過程の証明

まとめ

今回の日本画家による処分取消訴訟は、著作権侵害の判断と組織による処分の妥当性は別問題であることを明確に示した重要な事例です。また、適正な調査プロセスを経ずに重い処分を下すことの危険性も浮き彫りになりました。

類似性」を調査する場合は制作プロセス記録も見ていくことが大事です。制作プロセス記録は「侵害ではない」ことを裏付ける最も強力な客観的証拠であり、徹底した調査と立証権利を守る鍵となります。

クリエイターの皆さんにとっては、作品の制作プロセスを適切に記録しておくことの重要性を改めて認識する機会でもあります。


この記事の詳細について、YouTubeチャンネル「どんぐり5分知財ラジオ」でもお話ししています。ぜひ動画もご覧ください。


よくある質問(FAQ)

Q. 著作権侵害と判断されるための要件は何ですか?

A. 著作権侵害が成立するためには、主に「類似性」と「依拠性」の2つの要件を満たす必要があります。類似性は元作品の表現上の本質的特徴が後の作品から直接感得できるかという客観的判断、依拠性は相手の作品を見たことがあるかという主観的要件です。

Q. 作品制作時に記録しておくべきことはありますか?

A. 制作プロセスの客観的な記録を残すことが重要です。参考資料やインスピレーションの源、制作の各段階における進捗、使用した技法や素材、制作期間・場所などを記録しておくと、後に制作過程を証明する際に役立ちます。

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この記事はYouTubeチャンネル「どんぐり5分知財ラジオ」の動画をもとに作成しています。

動画はこちら → https://www.youtube.com/watch?v=1gcpD3VJCYo

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別のケースについては専門家(弁理士)にご相談ください。