

column
2026/8/26

世の中には本当にいろいろな考え方の人がいます。少し有名になり始めた商品名やサービス名、流行り始めた新しい言葉をいち早く察知して、本人よりも先に商標登録を取ってしまう人が実際に存在します。そして、その名称を本当に使いたかった人に対して「この商標を売ってあげますよ」と高額を持ちかけてくる。
倫理的にどうなのか、という気持ちは私も皆さんと同じです。ただ、皆さんが本当に知りたいのは「それは法的に許されるのか」という点ではないでしょうか。結論から申し上げると、その名称が有名かどうかで結論が変わります。そして、有名でない場合には、残念ながら通ってしまう可能性があるのです。
まず、流行語や世の中で広く知られている言葉については、他人が勝手に出願しても基本的に登録は認められません。商標法には、他人の周知の商標と紛らわしい商標を排除する規定や、他人の著名な商標を「不正の目的」で使用するために出願した場合を拒絶する規定が置かれています。
仮に何らかの事情で特許庁の審査をパスして登録されてしまったとしても、後から無効審判などによって登録を潰すことが可能です。現在のルールは、悪意ある便乗出願をきちんと排除する仕組みになっています。
つまり、全国的に名前が知れ渡っているブランドについては、比較的守りが効きます。問題はその手前の段階です。
困るのはこちらのケースです。
地方の小さなお店の屋号
地元では評判だが、全国的にはまったく無名の商品名
SNSで少しずつ広がり始めたサービス名
こうした「これから伸びそう」というタイミングの名称は、非常に危険です。商品や味が良く、口コミで広がり始めた段階で、まだ商標登録をしていない状況です。そこに目をつけた第三者が先に出願し、登録を取ってしまう。これは法的に成立してしまうことがあります。
なぜかというと、商標登録では「誰がその言葉を考えたか」は関係がないからです。重要なのは特許庁に誰が一番早く出願したのか。いわゆる先願主義です。極端に言えば、その言葉を考えていない人でも、先に出せば勝ってしまう仕組みなのです。
長年、秘伝の味を守るように大切に育ててきた屋号であっても、出願していなければ制度上は無防備な状態です。ここは本当に誤解が多いところで、「うちは10年使っているから大丈夫」という思い込みが一番危ないと感じています。

商品に関係ない第3者が先に商標出願されるのは「おかしいでしょう」と言って後から登録を取り消せるのか。名称が有名でない場合、これはかなり難しいのが実情です。
使える可能性がある手段としては、相手が登録後3年以上まったく使っていない場合の不使用取消審判があります。ただ、相手が形だけでも使用していれば通りませんし、それ以外の理由で取り消すのは容易ではありません。
また、自分が先に使っていたことを理由に使用を続けられる「先使用権」という制度もありますが、これは相手の出願時点で自分の商標が需要者に広く認識されていたことなどを立証しなければならず、ハードルは決して低くありません。「地元では知られている」程度で当然に認められるものではない、と考えておくべきです。
登録を排除できなかった場合、何が起こるか。
権利者から「その名称を使わないでください」という警告書が届く
場合によっては損害賠償請求を受ける
結果として、長年使ってきた名称を変えざるを得なくなる
屋号変更のコストを想像してみてください。看板、包装資材、ショップカード、メニュー、Webサイト、SNSアカウント、ドメイン、名刺、そして何よりこれまで積み上げた検索評価と口コミの資産。数十万円で済む話ではなく、小規模な店舗でも実質的な損失は百万円単位に膨らみます。せっかくテレビや雑誌に取り上げられた実績も、名前が変われば断絶します。
一方で、商標出願自体は数万円あればできてしまいます。だからこそ、嫌がらせ目的の出願や、転売目的の出願を繰り返す人が現実に存在するのです。防御コストと被害額が、あまりに不釣り合いだということです。
事業をされている皆さんには、次の3点を確認していただきたいと思います。
「ロゴだけ登録している」「会社名だけ登録している」というケースも要注意です。実際に集客の核になっているブランド名が押さえられているかを見てください。
メディアに出た後、SNSでバズった後は、狙われるタイミングです。話題になる前に出すのが最も安く、最も確実です。
飲食店から物販、EC、フランチャイズへ広げる予定があるなら、そこまで含めた設計が必要です。区分の選び方を誤ると、肝心の場面で権利が届きません。
商標は「登録できるかどうか」だけでなく、「事業のどこを守るか」という戦略の話です。当事務所では、事前の調査から区分設計、出願、権利取得後の運用までを一貫してお手伝いしています。自社の名称が無防備なままかもしれない、と感じた方は、被害が出る前にご相談ください。数万円の出願で、数百万円規模のリスクを外せるケースは決して珍しくありません。
他人が使用している名称を勝手に商標登録することは許されるのか。答えは「その名称が有名かどうかで変わる」です。有名であれば基本的に登録されませんが、有名でなければ普通に登録されてしまう可能性があり、元々使っていた人が使えなくなることもあり得ます。
商標の話は他人事ではありません。「自分には関係ない」と思わず、一度きちんと検討していただければと思います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的なご判断は弁理士等の専門家にご相談ください。
動画でも解説しています
このテーマは、YouTubeチャンネル「どんぐり5分知財ラジオ」でも音声で解説しています。通勤中や作業中の「ながら聴き」にどうぞ。
▶ No.257 他人が使用している名称を勝手に商標登録することは許されるのか?
ご質問はコメント欄でも受け付けています。いただいた質問はラジオ内で回答していきます。
Q. 自分が先に使っていた店名を、他人に商標登録されてしまいました。取り消せますか?
A. その名称が全国的に有名であれば無効審判等で争える可能性がありますが、地域限定で知られている程度の場合、取り消しはかなり難しいのが実情です。相手が登録後3年以上使用していない場合の不使用取消審判や、自分の使用実績に基づく先使用権の主張という手段はありますが、いずれも立証のハードルがあります。まずは早めに専門家へご相談ください。
Q. 10年以上使っている屋号なら、商標登録しなくても守られますか?
A. 使用年数だけで自動的に守られるわけではありません。商標法は先に出願した人を保護する先願主義です。先使用権は、相手の出願時点で自分の商標が需要者に広く認識されていたことなどの要件を満たす必要があり、「地元で知られている」程度で当然に認められるものではありません。
Q. 他人が使っている名称を、自分が先に出願して登録することは違法ですか?
A. 相手の商標が周知・著名であれば拒絶や無効の対象になります。一方、無名の名称については登録されてしまう場合があります。ただし、転売や嫌がらせを目的とした出願は不正の目的として排除される余地があり、事業としても信用を大きく損なう行為です。おすすめできません。
Q. 商標出願はいつ行うのがベストですか?
A. ブランド名を決めた段階、遅くとも本格的な販促やメディア露出の前がベストです。話題になってからでは第三者に先を越されるリスクが高まります。出願前の調査と区分設計を含めて、事業計画とセットで検討することをおすすめします。
この記事はYouTubeチャンネル「どんぐり5分知財ラジオ」の動画をもとに作成しています。
動画はこちら → https://www.youtube.com/watch?v=B6C6ygpjWSc
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別のケースについては専門家(弁理士)にご相談ください。