

column
2026/8/12

皆さんこんにちは。どんぐり特許商標事務所の弁理士、西山です。
先日、少し気になるニュースがありました。山梨県で、ディズニーの人気キャラクターであるダッフィーやシェリーメイのぬいぐるみを勝手に製造・販売していた女性が逮捕されたという事件です。
このニュースを聞いて、多くの皆さんは「キャラクターを勝手に使ったから著作権侵害だな」と思われたのではないでしょうか。ところが、この事件で逮捕された容疑は著作権侵害ではなく、商標法違反でした。
キャラクター絡みの事件というと、真っ先に著作権が思い浮かびます。しかし実務の世界では、あえて商標権で権利行使をするケースがよくあります。今回はその理由を、弁理士の視点から丁寧に解説していきます。
報道によると、この偽ぬいぐるみは本物と見分けがつかないほどハイクオリティなものだったそうです。正直なところ、これだけの技術があるなら、オリジナリティのある商品を作って堂々と世に出してほしかったと、弁理士としても、いち物作りを応援する人間としても、非常にもったいなく感じます。
ただ、ディズニーのような有名キャラクターであれば「売れるのはほぼ間違いない」という現実があります。少しでも売れるようにと人気キャラクターに乗っかってしまった背景は、想像に難くありません。
これまで100個以上を販売した可能性があり、1個あたり1万円ちょっとということは、単純計算でも100万円以上の売上になっていたと推測されます。
しかし、ここで注目していただきたいのがリスクの大きさです。商標権侵害の刑事罰は、10年以下の拘禁刑、または1000万円以下の罰金という、かなり重いものです。仮に100万円ほど稼いでいたとしても、リスクとリターンがまったく釣り合いません。もちろん初犯であれば実際にそこまで重い判決になることは考えにくいですが、それでも決して軽い犯罪ではないのです。
ここからが本題です。今回の偽ぬいぐるみには、ディズニーのロゴや名称が入った本物そっくりのタグが取り付けられていたそうです。そこには当然、ディズニーの登録商標が使われており、これが立件の決定的なポイントになりました。
「アメリカの会社のキャラクターなのに、なぜ日本の商標法違反になるのか」と疑問に思われた方もいるかもしれません。実は、ディズニーのキャラクターは、アメリカ本社である「Disney Enterprises, Inc.」が、日本国内でも直接、数多くの商標登録を行っています。特許庁への出願データを見ると、Disney Enterprises, Inc.は近年も年間十数件規模で日本国内に商標を出願しています。ディズニーキャラクターに関する商標は日本国内だけで現時点で約70体以上が登録されているとされています(同一キャラクターでもポーズや指定商品・役務が異なれば、別々に商標登録されるため件数が多くなります)。
つまり、ダッフィーのようなキャラクターも「アメリカで有名だから」守られているのではなく、日本国内できちんと商標登録の手続きを経て、法的に保護された権利として存在しているのです。今回の事件を商標法違反として立件できたのも、この「日本国内で正式に商標登録されている」という事実があったからこそだと言えます。
「では、タグを付けずにただのクマのぬいぐるみとして売れば問題なかったのでは?」と思う方もいるでしょう。しかし、それはそれでアウトです。
ダッフィーというキャラクター自体には当然著作権が発生していますし、有名な商品形態を模倣すれば不正競争防止法に抵触する可能性もあります。つまり、どのルートでも権利侵害となる可能性は高いのです。
ここで重要なのは、これが単なる「グレーゾーンの話」ではなく、明確な法律上の根拠に基づいているという点です。不正競争防止法では、広く知られた他社商品と混同を招くような商品の形態(パッケージデザインや商品自体の見た目)を模倣する行為そのものが規制対象になります(不正競争防止法2条1項3号)。つまり、ロゴやタグを取り外し、文字通り「無地」の状態にして販売したとしても、商品全体のシルエットや特徴的なデザインが本物と混同されるレベルで似ていれば、不正競争防止法違反に問われるリスクは十分に残ります。「ロゴさえ外せば大丈夫」というのは、法律的には通用しない考え方なのです。
もう一つ、実務でよくいただくご相談が「海外で作られた商品だから、日本の法律は関係ないのでは?」というものです。しかし、これも誤解です。日本の商標権・不正競争防止法は、商品がどこで製造されたかにかかわらず、日本国内で「販売」「輸入」「頒布」する行為そのものに適用されます。
たとえば、中国のOEM工場に商品の製造を依頼し、それを日本国内で輸入・販売するビジネスをされている方は少なくありません。その際、仕入れ先の工場が、有名なキャラクターや他社ブランドの意匠・ロゴを無断で使用した商品を製造していないか、事前にしっかり確認する必要があります。「海外の工場が作ったものだから、自分は関係ない」という言い分は、日本国内で販売した時点で通用しません。輸入・販売した本人が責任を問われる立場になります。
それでも警察が商標法違反で立件した最大の理由は、立証が圧倒的に簡単だからです。
刑事事件として立件する以上、警察は客観的な証拠に基づいて「これは権利侵害だ」と明確に示さなければなりません。ここで著作権と商標権では、立証のハードルが大きく異なります。
著作権の場合、次のような曖昧でファジーなポイントを一つひとつ立証する必要があります。
そもそも著作物と言えるのか
どこからどこまでが「表現」なのか
類似性はどの程度か
依拠性(相手が真似したこと)はあるのか
これらを証明していく作業は、とにかく大変で難しいものです。
一方、商標はどうでしょうか。特許庁のしっかりとした審査を受け、それをパスして「この文字、このロゴは登録商標です」とはっきり公的に決まっています。しかも、どの商品・サービスに使えるか(指定商品・指定役務)も明確に定められています。
ですから、偽物のタグと登録商標がバチッと一致すれば「はい、商標権侵害ですね」と非常にシンプルに立証できるのです。
「ディズニーのような巨大企業だからできることでしょう」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
中小企業や個人事業主、キャラクター制作やクリエイティブな活動をされている方にとっても、これはまさに自分ごとの話です。
長年かけて作り上げた商品やブランドを真似された、偽物が出回った——。そんなとき、著作権や不正競争防止法で戦うこともできますが、正直に言えばこれらは立証のハードルが高い戦いになります。
そこで、特許庁の審査を経て成立した「商標権」や「特許権」を持っていれば、権利行使は圧倒的にやりやすくなります。争点が明確になり、立証のハードルも大きく下がるからです。
逆に言えば、商標も特許も持っていない場合は、やむを得ず著作権や不正競争防止法という不利なフィールドで戦わざるを得なくなります。ここが権利化しているかどうかの決定的な差なのです。
以前「秘伝のタレは「特許」で守れない!創業100年の味を守る最強の知財戦略とは?」というテーマでもお話ししましたが、大切な資産を守る手段を事前に用意しておくことが、いざというときの武器になります。
弁理士として日々ご相談を受けている中で、あらためてお伝えしたいことがあります。それは、模倣品や偽物が出回ることは、単なる「イメージダウン」では済まないということです。
本来であれば自社の商品を選んでくれたはずのお客様が、安価な模倣品に流れてしまう。これは、正当な努力とコストをかけて商品を開発した企業から、得られるはずだった売上と利益を直接奪う行為です。ブランドの信頼が積み上げてきた価値そのものが、模倣品によって静かに目減りしていくのです。
だからこそ、権利化にかかる費用は「コスト」ではなく「投資」として捉えていただきたいと考えています。商標登録や意匠登録には、たしかに一定の費用がかかります。しかし、模倣品が出回ってから調査・警告・場合によっては訴訟にかかる費用や、失われた売上、ブランドイメージの毀損を考えれば、多くの場合、先に権利化しておくほうがトータルのコストは小さく済みます。
弁理士としての私たちの役割は、「なんでもかんでも権利化しましょう」とお伝えすることではありません。事業の中でどの部分を守ることが最も費用対効果が高いかを一緒に見極め、限られた予算の中で最大限の防御力を持てるよう、権利化の優先順位と戦略をご提案することだと考えています。
「自社の商品名やロゴを守りたい」「新しく立ち上げるブランドを保護したい」とお考えの方は、ぜひ一度、弁理士にご相談ください。どんぐり特許商標事務所では、権利化すべき対象の見極めから出願戦略の立案、その後の権利行使まで、皆さんの大切な資産を守るお手伝いをしています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
今回の内容は、YouTubeチャンネル「どんぐり5分知財ラジオ」でも音声で解説しています。通勤中や作業中の「ながら聞き」にもぴったりですので、ぜひご覧ください。
Q. キャラクターの偽物なのに、なぜ著作権侵害ではなく商標法違反で逮捕されたのですか?
A. 偽ぬいぐるみに本物そっくりの登録商標入りタグが付けられていたためです。加えて、商標権は特許庁の審査を経て成立しており、侵害の立証が著作権に比べて圧倒的に簡単なことも大きな理由です。著作権は著作物性・類似性・依拠性など曖昧な点を一つひとつ証明する必要があり、刑事事件では立証負担が重くなります。
Q. タグを付けず、ただのクマのぬいぐるみとして売れば問題なかったのですか?
A. いいえ、それでもアウトになる可能性が高いです。ダッフィーというキャラクター自体に著作権が発生していますし、有名な商品形態を模倣すれば不正競争防止法に抵触するおそれもあります。ただし、それらは商標権よりも立証が難しいという違いがあります。
Q. 中小企業や個人でも、ブランドを守るために商標登録すべきですか?
A. はい、強くおすすめします。商標権を持っていれば、偽物や模倣品が出たときに争点が明確になり、権利行使が圧倒的にやりやすくなります。人気が出てからでは遅い場合もあるため、事前の権利化が大切です。詳しくは弁理士へのご相談をおすすめします。
Q. ぬいぐるみのような立体的な商品そのものも商標登録できますか?
A. 原則として、商品そのものの立体的な形を商標登録するのは簡単ではありません。長年使用され続け、消費者が形を見ただけでブランドを認識できるようになった、非常に例外的なケースに限り「立体商標」として登録が認められることがあります(有名な例として飲料容器などが挙げられます)。多くのキャラクター商品では、商品の形そのものではなく、タグやパッケージに付けられた文字商標・ロゴ商標で保護されているのが一般的です。
Q. 模倣品を放置すると、具体的にどのような損失がありますか?
A. 最も直接的なのは、本来自社の商品を購入してくれたはずのお客様が模倣品に流れることによる売上機会の損失です。加えて、品質の劣る模倣品が出回ることでブランドイメージが毀損され、長期的な信頼の低下にもつながります。権利化(商標登録・意匠登録など)にかかる費用は、こうした将来の損失を防ぐための投資と捉えることができます。
Q. 海外で製造された商品を日本で販売する場合も、商標権の侵害になりますか?
A. はい、なります。商標権や不正競争防止法は、商品の製造地にかかわらず、日本国内で「販売」「輸入」「頒布」する行為に適用されます。中国輸入・OEM生産などで商品を仕入れて販売する場合は、仕入れ先が有名ブランドやキャラクターの権利を侵害した商品を製造していないか、事前の確認が重要です。
Q. ディズニーなどのキャラクター商品を、正式にライセンスを受けて販売することはできますか?
A. 可能です。多くの企業が公式ライセンスプログラムを通じてキャラクター商品を展開しています。ただし個人・中小企業が直接ライセンス契約を結ぶのはハードルが高いのが実情です。逆に、自社のブランドやキャラクターを商標登録・意匠登録しておけば、将来的に他社へライセンスを許諾して収益化する道も開けます。
この記事はYouTubeチャンネル「どんぐり5分知財ラジオ」の動画をもとに作成しています。
動画はこちら → https://www.youtube.com/watch?v=2Vd7rTZj9lM
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別のケースについては専門家(弁理士)にご相談ください。