弁理士 西山 玄一郎(登録番号: 22420)
どんぐり特許商標事務所 代表
個人やスモールビジネスオーナーなどから商標、著作権、知財戦略に関する数多くの相談を多く受けており、専門用語を使わずに説明するため非常に好評。化学・バイオ系の特許にも強い。アプリ開発を行うITベンチャーの起業経験もある。
ご質問をいただきました!
ハンドメイドの書籍に掲載されている作品を見て、その作品を作って販売しても問題ないでしょうか?
結論としては以下のようになります。
書籍に「商用利用不可」の注意書きがある場合には、作品を販売してはいけません。
そのような記載がなければ問題ありません。
最近は、趣味の延長や副業として、ハンドメイド作品を作って販売される方が増えてきている印象があります。
実際に、身の回りにもハンドメイド作品を作って販売されている方が増えてきている印象を受けています。
ハンドメイド作品を販売する方法も「Creema」や「minne」など、便利なハンドメイド売買アプリが普及しています。
クリーマの流通総額も年々増加しており、今後ますますハンドメイドの市場は大きくなるのではないかと考えられます。
2つのポイント
ハンドメイド作品集に掲載されている作品を制作して販売するにあたって、考慮すべきポイントが2つあります。
- 著作権
- 書籍の「商用利用不可」の注意書き
さらに細かいことを言えば、「意匠権」というデザインの権利についても注意する必要がある場合もありますが、ハンドメイド作品集に掲載されている作品で意匠権が問題になることはあまり考えにくいため、ここでは省略します。
著作権について
著作権とは
著作権は、非常に幅広い創作物に発生します。
例えば、文章、イラスト、写真、音楽、踊りなど、ありとあらゆる創作物に対して著作権が発生しますが、必ずしも全ての創作物に対して著作権が発生する訳ではありません。
その創作物に創作者の思想や感情などが表現されていて、初めて著作権が発生します。
そのため、例えば、思想や感情が含まれていない単なる事実を書いただけの文章や、AIが作った画像などは、思想や感情が含まれていないため、著作権が発生しません。
ハンドメイド作品の著作権
次に、ハンドメイド作品に著作権が発生するかどうかが問題になります。
一般的には、ハンドメイド作品の商品には著作権が発生しません(例外も存在します)。
ハンドメイド作品には、作り手の創意工夫や思想・感情が込められているかもしれませんが、一般的に、市場に流通する量産される商品には著作権が発生しないとされています。
ただ、ハンドメイド作品が量産できない一点物であれば、著作権が発生する可能性もありますが、今回の質問では、書籍に掲載されているハンドメイド作品のため、量産できることが明らかであるため、著作権は発生しないものと考えるのが妥当です。
ちなみに、「ハンドメイドの作品の作り方そのもの」は、単なるアイデアなので、著作権は発生しません。
「商用利用禁止」の注意書きについて
商用利用禁止の注意書きの例
この本で紹介している作品を複製して販売(店頭販売、委託販売、通信販売、ネットオークション等)することは禁止されています。手作りを楽しむためにご利用ください。
本書の掲載作品について、営利目的(キット販売、オークション販売、インターネットの各種販売サイト、個人売買マーケット、SNS、実店舗やフリーマーケット、スクール運営など)で複製することは禁止されています。また、本誌掲載作品の類似品も営利目的では使用できません。
商用利用禁止の趣旨
ハンドメイド作品集などの書籍には、「商用利用不可」などの注意書きが記載されていることが多いです。
なぜ、このような商用利用不可の注意書きが記載されているのでしょうか?
ハンドメイド作品集を出版する著者には以下のような想いがあると考えられます。
- 自分の作品をより多くの人に見てもらいたい
- 自分の作品を書籍という形でまとめたい
- 作り方を掲載することで、より多くの人に作る楽しさを広めたい
もし、書籍に掲載されているハンドメイド作品を書籍の購入者が大量に作って、販売したらどうなるでしょうか?
著者にとっては、自分の考えた作品のコピーを、無関係の人が大量に売ることで大きな売上を得ていたら微妙な気持ちになるのではないでしょうか?
“微妙な気持ちになる”だけだったらそれほど大きな問題ではないでしょうが、もし、その著者でない別人の商品の購入者が、著者の作品であると勘違いした場合が問題になります。
例えば、著者でない別人が製造販売した商品が粗悪だったり、不良品があった場合に、間違って著者の方にクレームが届くことも想定されます。
このようなケースの場合、現に著者にとっては不利益を被ることになります。
このような理由により、著者を守るために「商用利用禁止」の注意書きが記載されているものと考えられます。
商用利用禁止を破った場合
商用利用禁止と記載されているからには、この注意書きを守ることが大事ですし、人として当たり前のことです。
個人的・家庭的な範囲で作る場合は、商用利用でないため、当然大丈夫です。一方、材料費程度を受領することが商用利用となるかどうかは、判断が分かれるところですので、著者に問い合わせる必要があります。
では、この商用利用禁止の注意書きを破って販売して利益を得た場合どうなるでしょうか。
この場合、販売したからといって、懲役や罰金などの刑罰に課されることはありません。
また、ごく少数の商品を販売したからといって、すぐに大きな問題になることは可能性としては低いと考えられます。
著者や書籍の出版社にバレなければ大きな問題にならないでしょうが、バレなければ大丈夫、という話ではありません。購入者がSNSで投稿する可能性がありますし、いずれバレることにはなるでしょう。
著者にバレた場合、まずは本人もしくは弁護士から連絡が来ると考えられます。
その連絡の内容は大きく5つあります。
- 販売をやめて欲しい
- 販売した分を回収して、廃棄して欲しい
- 今ある在庫分を廃棄して欲しい
- 過去に販売した分の賠償金を支払って欲しい
- 今後販売を継続するならライセンス料を支払って欲しい
上記①〜③については、理解しやすいでしょう。
④の賠償金や、⑤のライセンス料については、あまりピンとこないかもしれませんね。
賠償金については、例えば、1つ1000円の商品を10個販売した場合、売上は1万円になります。原価が1つ当たり500円の場合、10個分の利益は5000円になります。この場合、賠償金として妥当な金額は、せいぜい5000円〜1万円程度と考えられます。
この程度であれば、弁護士費用の方が明らかに大きくなってしまいます。
もちろん書籍の著者にとっては、深刻な問題になり得ますので、この程度という表現は相応しくありませんが、現実的な問題として、ごく少量しか販売していない場合には、争いになりにくい、ということになります。
そして、⑤のライセンス料については、商品ジャンルや商品の価格帯などによって様々ですが、商品価格の数%〜数十%のライセンス料を提示されることになります。
つまり、模倣品を販売したらその%分だけライセンス料として支払う必要があるということになります。
このため、販売数量が多くなればなるほど、賠償金やライセンス料の負担額が大きくなるということになります。
したがって、スケールさせたいと考えているのであれば、他人の作品の模倣ではなく、オリジナルの作品を考えてそれを作って販売するべきだということになります。
もし、どうしてもその本の著者の作品を作って販売したい、というのであれば、販売する前に著者に連絡し、「ライセンス料を支払うので販売させて欲しい」という相談をして、合意した上で販売するようにしなければなりません。もちろん、合意した内容はしっかり合意書という形で残しておくようにしましょう。
そのようなことでない限り、商用利用禁止の注意書きのある書籍の作品を無断で販売することは避けるようにしましょう。
まとめ
ハンドメイドの書籍に掲載されている作品を見て、その作品を作って販売しても問題ないでしょうか?
という質問に対する回答としては、
書籍に商用利用禁止の注意書きが記載されている場合には、やめておきましょう。
もし、それでも作って販売したいのであれば、著者に連絡し、ライセンス料を支払って販売する交渉をしましょう。
一方、商用利用禁止の注意書きの記載がなければ、作って販売することは問題ありません。
もし、不安なことやご不明なことがございましたら、遠慮なくご相談ください!