弁理士 西山 玄一郎(登録番号: 22420)
どんぐり特許商標事務所 代表
個人やスモールビジネスオーナーなどから商標、著作権、知財戦略に関する数多くの相談を多く受けており、専門用語を使わずに説明するため非常に好評。化学・バイオ系の特許にも強い。アプリ開発を行うITベンチャーの起業経験もある。
商標について調べていると、指定商品や指定役務という言葉が出てきて一体なんだろうか?とお思いの方も多いと思います。
指定商品・指定役務とは、自分の商標を何に対して使用するかを特定するものです。商標登録出願をする際に、具体的に指定商品・指定役務を記載する必要があります。そして、この指定商品・指定役務が商標権の権利範囲を定める要素の一つとなるため、非常に重要なものです。
この記事では、具体的に指定商品・指定役務とはどういうものか?についてご説明し、
どのようにして指定商品・指定役務を選べば良いのか具体的な方法もご紹介していきます。
商標とは
商標とは、自分のビジネスのブランドを示す表示のことです。
世の中には、さまざまなブランドが存在します。会社名や屋号であったり、商品やサービスの名称などがあります。
ちなみに、会社名や屋号は「ハウスマーク」といい、商品やサービスの名称は「ペットネーム」といいます。
登録商標とは
商標を登録することで真似されずに使用できる
自分の商標を特許庁に登録したものが登録商標です。
商標を登録することにより、他人に勝手にその商標を使われることなく、独占してその商標を使うことができます。
逆に言えば、他人が既に登録している商標を勝手に使用することはできません。
しかも、自分が先に商標を使用していたにもかかわらず、後から他人が同じような商標を登録した場合であっても、その商標を使うことができなくなります。
なぜなら、商標の制度は、先に登録したもが勝ちのためです。
そのため、自分の使用する商標が登録されていないかどうかを確認することは非常に重要なことです。
他人の登録商標の詳しい調べ方については、以下の記事で紹介しています。
多くの人が誤解しがちな点
自分の商標と同じような商標が、既に他人によって登録されていた場合、その商標は使えないの?
これは勘違いです。必ずしもそうではありません。
なぜなら、商標というのは、「マーク」と「そのマークを何に使うか」のセットで登録されるためです。
「そのマークを何に使うか」というのは、その商標をどの商品やサービスに使うのか?ということです。
「マック」の例
例えば、わかりやすい例を挙げます。
「マック」というと、「マクドナルド」をイメージする人が多いかもしれません。
マクドナルドの他にも、アップル社のパソコンの「iMac」や「MacBook」などをイメージする人がいると思います。
私は関西人なので、「マック」と聞いて「マクドナルド」よりもアップルの「マック」をイメージしますが。
実は、「マック」という商標を、マクドナルド社も、アップル社も両社共に登録商標として保有しています。
マクドナルド社のマックの登録商標は複数あり、例えば、第2188713号の商標では、
- 肉製品
- サンドイッチ
- べんとう
の商品に対して使用するものとして登録されています。
アップル社のマックの登録商標(第5325717号)は、
- 電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作
- インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイルの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(電子商取引によるものを含む。)
などのサービスに対して使用するものとして登録されています。
ちょっとわかりにくいですが、ざっくり言うと、「PCを使ったサービス」に対して使う商標として登録されています。
両者は商標だけ見ると同じですが、いずれも登録商標として特許庁に登録されています。
その理由は、それらの商標を使う対象が異なるため、登録ができるのです。
マクドナルドは、ハンバーガーに使うのに対し、アップルはPCを使ったサービスに対して使います。
両者の使う場面が全然異なり、一般の人は混同することがないと考えられるため、共存するのです。
このように、使う場面が全く異なるのであれば、同じ商標でも登録可能ですし、使用しても問題ないということになります。
「何に使うか」を定めるのが「指定商品」や「指定役務」
この「何に使うか」を定めるのが、「指定商品」や「指定役務」といいます。
指定商品は、どの商品に対して商標を使うかを示すもの
指定役務は、どのサービスに対して商標を使うかを示すもの
ちなみに、役務は「えきむ」と読みます。
指定商品・指定役務の指定の仕方
指定商品や指定役務は、商標の権利の範囲を定める要素のため、どんな内容でも良いというわけではありません。
記載した指定商品や指定役務が不明確な場合は、特許庁の審査により登録できない旨の通知が来ることになります。
そこで、指定商品や指定役務を検討する簡単な方法をご紹介します。
J-PlatPatの商品・役務名検索する方法
特許庁の外郭団体である独立行政法人 工業所有権情報・研修館の特許情報プラットフォームを利用します。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
商標メニューから商品・役務名検索を選択します。
検索キーワードの商品・役務名に商標を使用する商品やサービスを入力し、検索します。
今回は「コーヒー」で検索してみました。
ここで、通常の審査(約1年)よりも早く審査(約半年)が行われる「ファストトラック審査」を受けて、早く商標権を取得したい場合には、決まった特定の指定商品・指定役務を選択する必要があります。
その場合には、J-PlatPatの商品・役務名検索の「類似商品・役務審査基準」と「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」のみにチェックを入れて検索して表示された指定商品・指定役務だけを使用する必要があります。
早期審査やファストトラック審査については、別の記事で紹介予定です。
検索の結果が表示されます。
ここで、「商品・役務名(日本語)」に記載の項目が指定商品・指定役務です。これと「区分」の数字も大事なので、セットでメモしておきましょう。
他人の登録商標を参考にする方法
J-PlatPatで指定商品・指定役務を検索して決める方法の他に、他人の登録商標を参考にして、指定商品・指定役務を決める方法があります。
自分の商品やサービスと類似している他人の有名な商品・サービスがある時、その登録商標を調べてその指定商品・指定役務を参考にします。
例えば、自分のコーヒーショップを開きたいと思い、店の名前を決めたものの、指定役務をどのようにすれば良いかわからない時、他社の登録商標を参考にすることも可能です。
今回は「スターバックス」を例にしてみます。
J-PlatPatで商標検索を行います。
商標(検索用)に「スターバックス」と入力し、検索すると、5件の登録商標が確認できます。
これら全ての詳細を確認すると、
第5677138号では、区分が第40類の以下の指定役務であることがわかります。
- コーヒー豆の焙煎
- コーヒー豆の加工
- プラントを用いたコーヒー豆の焙煎
- プラントを用いたコーヒー豆の加工
- その他の食料品の加工
- 受託によるコーヒーその他の各種飲料の製造
- その他の受託による飲食料品の製造
- 食料加工用又は飲料加工用の機械器具の貸与
第5986411号では、区分が第35類の以下の指定商品であることがわかります。
- ビジネスコンサルティング
- レストラン・カフェ・コーヒー店及び軽食堂の開業・経営に関するコンサルティング・指導・助言及び支援
- フランチャイズの事業に関する経営の指導及び助言
- 商品の販売の取次又は仲介
- 広告業
- トレーディングスタンプの発行
- 経営の診断又は経営に関する助言
- 市場調査
- 商品の販売に関する情報の提供
- ホテルの事業の管理
- 被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 手動利器・手動工具及び金具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 楽器及びレコードの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
- 測定機械器具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
上記のうち、自分のビジネスに合った指定役務を選択するということになります。
区分とは?
指定商品・指定役務とは別に、区分というものも密接に関わってきます。
区分というのは、指定商品や指定役務のジャンルのようなもので、この区分と指定商品・指定役務をセットで願書に記載し、出願する必要があります。
現在のところ、区分は第1類から第45類まであります。
第1類から第34類までが商品、第35類から第45類までがサービスになっています。
区分については別の記事で詳細に解説していますので、ぜひご覧ください!
指定商品・指定役務を記載するときに知っておくべきこと
- 指定商品や指定役務は、いくつでも列挙できます
※ いくつ記載しても費用は同じです。費用に関係するのは区分の数だけです。 - 区分よりも指定商品・指定役務の方が重要
※ 他人の商標とバッティングしているかどうかは、商標自体の比較と、指定商品・指定役務の比較を行います。区分の比較は行いません。また、他人が勝手に自分の商標を使っている時、侵害しているかどうかも指定商品・指定役務で判断します。 - 複数の指定商品・指定役務を列挙する際の区切り記号は「,(全角カンマ)」で記載しなければなりません
※ 例えば「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」のように一つの指定商品・指定役務の中で「、(読点)」を使用する場合があり、区別するためです。
まとめ
指定商品・指定役務とは、何に対して商標を使用するかを定めるもので、同時に権利の範囲を決めるものです。
めっちゃ大事です!
自分で指定商品・指定役務を決めることができれば良いですが、どうしたら良いかわからない場合があると思います。
そのような場合は、商標の専門家である弁理士にご相談ください!
本記事の著者がじっくり納得いくまでご相談に乗ります。