弁理士 西山 玄一郎(登録番号: 22420)
どんぐり特許商標事務所 代表
個人やスモールビジネスオーナーなどから商標、著作権、知財戦略に関する数多くの相談を多く受けており、専門用語を使わずに説明するため非常に好評。化学・バイオ系の特許にも強い。アプリ開発を行うITベンチャーの起業経験もある。
商標登録を受けるためには、特許庁に出願(申請)をし、審査官による審査を受ける必要があります。
登録されるためには、一定の基準を全てクリアする必要があり、その基準のことを「登録要件」といいます。
出願した商標は、特許庁の審査官によって、この登録要件を審査されます。
審査により、全ての基準を満たしていた場合、登録可能な状態になり、あとは登録料を支払うだけで登録されます。
しかし、一つでも基準を満たしていなければ、特許庁から出願人に対して、どの点で基準を満たしていないかの通知が届きます。これを解消すれば登録可能な状態になりますが、解消されなければ登録できないことになります(拒絶査定といいます)。
この基準(登録要件)は非常に細かく、様々な観点で定めされています。
ここでは、その基準としてどのようなものがあるのかイメージしていただくために、ざっくりとした内容をご紹介します。
実際には、細かいルールがたくさんある割に、ケースバイケースで判断が分かれるなど、非常に難しい場合がありますので、登録可能かどうか悩まれた際には、専門家である弁理士にご相談されると良いでしょう。
商標が登録される基準(登録要件)
商標の登録要件の項目は非常に多くありますが、大きくと分けると4つになります。
- 誰の商標か特定しにくいもの
- 公益に反するもの
- 他人の商標と似ているもの
- 自分の事業で使用しないもの
これら4つ基準を全て満たす必要があります。
さらに、これらの項目の中にもさらに細かいルールがありますが、自分で商標を出願するにあたって、最低限知っておいた方が良い項目を解説していきます!
① 誰の商標か特定しにくいもの
登録商標は、誰にも真似されずに独占して使うことができます。
そのため、誰もが使うべきフレーズやマークは登録されるべきではありません。
例えば、
● 商品「ペン」に対して、商標「使いやすいペン」
● 商品「にんじん」に対して、商標「東京産人参」
もしこのような商標が登録されてしまったら、誰もが使うことができなくなるので、それを避けるためにこのような商標は登録できません。
ただし、例外もあって、例えば、「夕張メロン」のような産地名が入った登録商標もあります。
これは、地域団体商標という特殊な商標制度を用いて登録された商標です。一般の人がこのような産地を含む商標の登録を受けることは通常できません。
② 公益に反するもの
国旗や都道府県のマークなど、公共性のあるマーク(例えば赤十字のマーク)などは、特定の個人・法人に独占させるべきではないため登録されることはありません。
また、個人のフルネームが含まれる場合や、著名人の氏名や名称を含む商標も認められません(承諾を得ていたらOK)。
これは、一個人に公共性の高い商標を独占させることを避けるためであり、また、他人の氏名や名称は勝手に誰かに登録すべきではないためです。
例えば、ドラッグストアの「マツモトキヨシ」や元ZOZOの社長の「前澤友作」は登録商標です。
通常、このような個人のフルネームは、同姓同名の他人から許諾を受けないと、商標登録を受けることができませんが、特許庁の審査で同姓同名の他人がいなかったと判断されたのか、なぜか登録されています。
ただ、最近、「マツモトキヨシ」のCMでも使われている音商標はこの理由で拒絶され、登録されませんでした。
あと、卑猥なものもNGです😅
③ 他人の商標と似ているもの
他人の有名な商標と似ており、商品やサービスも同じような場合は登録されません。
これは誰の商標かわからなくなり、一般の人にも不利益があるためです。
他人の商標がものすごく有名であれば、たとえ商品やサービスが異なっていても登録できません。
また、既に登録商標として登録されている他人の商標と似ており、商品やサービスも同じような場合も登録されません。
商標登録は早い者勝ちなので、先に登録しているものと似ている場合は、後から登録しようとしてもダメです。
例えば、高級食パンに「セレブパン」という登録商標が存在していた場合に、自分も高級食パンの事業をしており、同じような商標「セレブな食パン」という商標を出願したいと思って出願しても、商標が類似で、かつ、商品(パン)が同じであるため、登録商標を取得することはできません。
他人の既に存在する登録商標 | 自分の商標 | |
---|---|---|
商標 | セレブパン | セレブな食パン |
商品・サービス | パン | パン |
④ 自分の事業で使用しないもの
商標は自分の事業で使用するものしか登録することができません。
使用していない商標が登録された場合、後で使用していないことが判明すると、取り消されてしまう恐れがあります。
特に、出願時に記載した指定商品・指定役務のうち、事業で使用していないものがあれば、商標が取り消されてしまう恐れがあるため、むやみやたら出願の際に指定商品・指定役務を列挙することはオススメできません。
現実に数年以内に使用する可能性がある範囲で出願することをおすすめします。
なお、特許庁より、指定商品・指定役務の数についての注意がされています。あまりにも多くの数を指定すると、本当に使用するのかどうかを確認する資料を提出する必要があります。
1区分内における類似群の上限数は、「22個」としています。確認が求められた場合には、指定商品・指定役務について商標を使用している又は使用する予定があることを証明するためのカタログやパンフレットなどの資料を提出する必要があります。
特許庁審査業務部商標課「商品・役務を指定する際の御注意」
「類似群」とは何か?については別の記事で解説予定です。
ちなみに、登録された商標や、その商標を指定した商品やサービスに使用していない場合、自動的に登録商標が取り消される、という訳ではなく、誰かからの取り消しを求める請求があった場合に、特許庁が対象の商品・サービスに対して対象の商標が使用しているかどうかを判断し、取り消すか否かの決定がされます。
そのため、誰からも取り消す旨の請求が無ければ勝手に取り消されることはありません。
まとめ
細かいことはさておき、商標登録出願をする時には、以下の4つの基準について知っておくと良いでしょう。
- 誰の商標か特定しにくいもの
- 公益に反するもの
- 他人の商標と似ているもの
- 自分の事業で使用しないもの
細かいルールや、実際の判断は難しい場合もありますので、ぜひ、専門家である弁理士に相談されることをオススメします。ご不明な点などあれば、弁理士である本記事の著者にご相談ください!