商標登録・意匠登録・特許出願をオンラインで相談できるどんぐり特許商標事務所

column

知的財産コラム

2026/10/8

イラスト・デザインの著作権は譲渡か許諾か?制作者が決めておくべきこと

イラストの著作権は譲渡か許諾か?制作者が決めておくべきこと

イラストやデザインの著作権は、代金を支払っても自動的に依頼者へ移るわけではありません。「譲渡」するのか「利用許諾」にとどめるのか——制作者は、これを受発注の前に依頼者と合意しておくことが大切です。所有権と著作権は別物だからです。この記事では、著作権の譲渡と利用許諾の違い、そして契約で最低限決めておくべき項目を、弁理士がイラストレーター・デザイナー向けに解説します。

私は日頃から、イラストレーターさんやデザイナーさんから著作権の相談を受けています。一般の方から「この素材を使っていいのか」という相談を受けることもありますし、依頼する側からの相談もあります。どちらかというと、制作を受ける側からの相談の方が多いです。

長く活動されている方は、著作権の扱いをよく理解されている方が増えてきた印象です。一方で、始めたばかりの方は、そのあたりの知識がまだふわっとしていることが多いと感じます。

「お金を払えば著作権も移る」という依頼者の誤解(所有権と著作権は別物)

一番の前提として、イラストレータやデザイナーの作品の所有権と著作権は別物です。ところが、ここが意外と認識されていません。

依頼する側は「お金を払ったのだから、作品の著作権も自分に移る」と思っていることがかなり多いです。一方で制作する側は、当然、著作権までは渡していない前提で話をしています。ここに認識のずれが生まれて、後々問題になりやすいのです。

さらに、権利について契約書を交わすことは、実際のところあまりありません。「どんな作品にしましょうか」という中身の話はしても、「著作権は私の方で持っておきますね」とは、制作する側からは言い出しにくいと思います。権利の話をしたせいで「じゃあ、やめます」と言われてしまうかもしれない。そこが気にかかるのは当然です。

こうして、権利の扱いがきちんと伝わらないまま、取引が進んでしまうことが少なくありません。

著作権の譲渡と利用許諾の違い

何の取り決めもなければ、著作権は制作者に残り、依頼者は「使ってよいと許された範囲」で使うことになります。これが利用許諾です。著作権そのものを依頼者に移すのが譲渡です。

著作権について

利用許諾

譲渡

制作者(著作権を持つ人)

制作者のまま

依頼者に移る

依頼者が使える範囲

制作者に許諾された範囲だけ

依頼者が基本的に広く使える(ただし後述の注意あり)

第三者が勝手に使ったとき

権利行使できるのは制作者

依頼者が自分で対応できる→権利行使できる

制作者のコントロール

制作者が持ち続ける

依頼者に移る(制作者はほぼ決められない。ただし"改変されない権利"は残る)

料金

制作料

制作料とは別に譲渡料を請求できる

権利を持っておくメリット

制作者から見て、どちらがよいかは一概には言えません。ただ、権利を持っていることの一番のメリットは、作品をコントロールできることです。

たとえば、まったく関係のない第三者が勝手に作品を使っているのを見つけたとき、「やめてください」と権利行使できるのは、あくまで権利者である制作者です。二次利用を認めるかどうかを決めるのも権利者(制作者)です。作品の取り扱いをすべてコントロールできる。これが権利者(制作者)であることの最も大きなポイントです。

譲渡した方が円滑に進む場合

一方で、作品はもう依頼者に渡ったのだから、いちいち管理するのは面倒だという場合もあると思います。第三者の侵害が見つかるたびに、依頼者から「権利行使してください」と頼まれる。これが続くと、さすがに負担です。

そういった対応も含めて依頼者に移したいのであれば、著作権を譲渡するのも一つの方法ですし、その方が話が円滑に進む場合もあります。

結局のところ、作品をコントロールしたい、管理したいのであれば、権利を持っておく。譲渡すればコントロールはほぼできなくなるので、そのことを理解したうえで譲渡してください。

譲渡料の考え方

著作権を譲渡する場合は、作品の制作料とは別に、譲渡料を請求できます。決まった金額はありませんが、制作料の2〜3倍程度の金額を請求しても、まったくおかしくはないと私は考えています。

譲渡しても「何でも自由」にはならない理由(翻案権・同一性保持権)

著作権を譲渡しても、依頼者が作品を何でも自由に変えられるわけではありません。

まず、契約書に「著作権を譲渡する」とだけ書いた場合、アレンジする権利(翻案権など)は、制作者の側に残ったものと推定されます(著作権法61条2項)。実務でここまで説明することはあまりありませんが、依頼者がアレンジするつもりなら、契約で手当てしておいた方が安心です。

実務でよく説明するのは、むしろ同一性保持権の方です。これは著作者人格権の一つで、作品を勝手に改変されない権利です(著作権法20条)。著作者人格権は、そもそも譲渡できません(著作権法59条)。

つまり、勝手に改変できないという点は、制作者が日頃から依頼者に理解してもらわないといけないところです。逆に、依頼者が改変する可能性があるのなら、事前に「アレンジしてもいいですか」という合意を取っておくことが欠かせません。

著作者人格権の不行使特約への向き合い方

デザイン創作の契約書を見ていると、「著作者人格権を行使しない」という特約が、テンプレートのように入っているのをよく目にします。

制作者の立場から見て、著作者人格権は守るべきところだと私は考えています。できるだけ、この特約を削除してもらう方向で交渉するべきです。

著作者人格権は軽視されがちですが、不行使の条項を入れておくことで、不利益を被る可能性もあります。相手の性善説を信じるのも一つかもしれませんが、それが必ずしも良いとは限りません。特約の削除を求めるか、少なくとも「こういう使い方はやめてください」という具体的な制限をつけたうえで契約する方がよいと思います。

作品の利用範囲の取り決めがないまま起きるトラブル

よくあるのが、取り決めがないために、作品を勝手に改変して使われてしまったというケースです。制作者は利用許諾のつもりでいたのに、依頼者は譲渡を受けたと勘違いしていた、ということが起きます。

このとき、依頼者が使えるのは許諾した範囲までです。ところが、その許諾した範囲すら話をしていないことも多々あります。そうなると、社会通念や過去のやりとりから範囲を考えることになります。

どのケースも、問題の多くは、きちんと取り決めをしていなかったことに起因しています。

デザインの契約で最低限決めておくこと

制作を受けるときは、依頼者に「何に、どのように使うのか」を事前に確認しておきます。使い方によって、許諾で十分なのか、譲渡にするべきなのかが変わってくるからです。

項目

確認すること

考え方の例

譲渡か許諾か

著作権をどちらが持つか

最低限、これだけは合意しておく

用途

何に使うか

屋号のハウスマークと商品のマークでは、使い方も使う期間も違う

媒体

オンラインか、オフラインか、SNSで使うか

媒体によって使われる頻度が変わる

期間

どのくらいの期間使うか

屋号は長く使う。商品はいずれ使わなくなる可能性がある

改変

アレンジしてよいか

改変の可能性があるなら事前に合意

してほしくない使い方

禁止したい使い方

はっきり伝え、明記しておく

特に、してほしくない使い方をはっきり伝えておくことが大切です。

著作権の話を切り出すタイミングと伝え方

権利の話は言い出しにくいので、ホームページに書いておくなど、機械的に伝わる仕組みにしておくのがよいと思います。ただ、一方的に伝えるだけでは、合意が取れたとはなかなか言えません。

料金の支払いの段階や、作品ができあがった段階で権利の話をすると、「そんなことは聞いていなかった」となりがちです。ですから、できるだけ早い段階で、目につくところに示しておく。料金表、見積書、ご依頼の流れのページなど、場所はどこでも構いません。そのうえで、実際に料金を説明するときに、メールやチャットで改めてもう一度説明する。

最初に伝えておき、最後の詰めで改めて説明する。この流れが一番親切で確実です。

不行使特約の削除交渉や、契約書の文言で迷ったときは、弁理士に相談していただければ、制作者の立場に立って一緒に整理できます。

制作者に一番伝えたいこと

著作権を譲渡するのか、許諾にとどめるのか。これを受発注の前に伝えて合意を取ることは、最低限必要です。ぜひ意識して取り組んでください。

よくある質問(FAQ)

Q. 契約書を交わしていない場合、著作権はどうなりますか?

A. 何の取り決めもなければ、著作権は制作者に残ったままで、依頼者は許された範囲で使うという扱いになります。ただ、その範囲すら話をしていないことが多く、その場合は社会通念や過去のやりとりから考えることになります。

Q. 著作権の譲渡料はいくらが妥当ですか?

A. 決まった金額はありません。ただ、制作料とは別に、制作料の2〜3倍程度を請求しても、まったくおかしくはないと考えています。

Q. 著作権を譲渡すれば、依頼者は自由にアレンジできますか?

A. そうとは限りません。アレンジする権利は契約で明記しないと制作者に残ると推定されますし、作品を勝手に改変されない権利(同一性保持権)は譲渡できません。アレンジの可能性があるなら、事前に合意を取っておくことが必要です。

Q. 著作者人格権の不行使特約は、受け入れるしかないのでしょうか?

A. 制作者としては、できるだけ削除してもらう方向で交渉するべきだと考えています。難しい場合でも、「こういう使い方はやめてください」という具体的な制限をつけたうえで契約する方がよいと思います。

Q. ホームページに権利の扱いを書いておけば十分ですか?

A. 一方的に伝えるだけでは、合意が取れたとは言いにくいです。早い段階で目につくところに示したうえで、料金を説明するときに改めて伝えるのが確実です。

この記事を読んだ方におすすめ

イラスト・デザインの著作権について、あわせて読んでおきたい記事です。

著作権の基本的な考え方と5つの誤解
「お金を払えば著作権も移る」など、ありがちな誤解を弁理士が整理。著作権の基本をおさえたい方に。


この記事はYouTubeチャンネル「どんぐり特許商標事務所【弁理士 西山玄一郎】」のショート動画をもとに、動画では触れられなかった内容まで掘り下げて作成しています。

記事の執筆者

西山 玄一郎

にしやま げんいちろう

どんぐり特許商標事務所/代表弁理士

弁理士登録番号 第22420号

大手製薬会社で創薬研究、知的財産部で特許・意匠の出願・調査・訴訟に従事し、米国の特許事務所・法律事務所へ留学。ITベンチャーの起業・事業売却、AI創薬ベンチャーのサポートを経て、2021年にどんぐり特許商標事務所を開業。「権利をとる側」と「事業をつくる側」の両方の視点から、個人事業主・小規模事業者の知的財産をサポートしています。

知的財産について
相談したい、依頼したい、知りたいを解決!

知的財産で「これって守れる?」
そんな疑問を気軽にご相談いただけます。
ビジネスに役立つ知的財産のショート動画を配信中!

Amazonで書籍を見る

一覧に戻る