弁理士 西山 玄一郎(登録番号: 22420)
どんぐり特許商標事務所 代表
個人やスモールビジネスオーナーなどから商標、著作権、知財戦略に関する数多くの相談を多く受けており、専門用語を使わずに説明するため非常に好評。化学・バイオ系の特許にも強い。アプリ開発を行うITベンチャーの起業経験もある。
本業や副業で自分のビジネスをスタートさせるときや、ビジネスがある程度の規模になってきたときに、自分の製品やサービスのブランドを守りたいと思うことでしょう。ビジネスをする上で、ブランド戦略は非常に重要です。ブランドが確立されていると認知度の向上や信頼の蓄積につながり、ビジネスを大きくすることができます。
自分のブランドを守る最も有効な方法が、登録商標を取得することです。
登録商標を取得することで、他人に真似されることなく、特許庁のお墨付きをもらった自分の商標を自信を持って使うことができます。
では、登録商標を取得するにはどうすれば良いでしょうか?
最も良い方法は、専門家である弁理士に依頼することです。弁理士に依頼することで、単に商標を取得するだけでなく、ビジネスに有効なアドバイスなど付加価値も一緒に得ることができるでしょう。
ただ、弁理士に依頼するとそれ相当の費用が必要になります。特にビジネスを立ち上げた段階や、個人でビジネスをしているときは金銭的な余裕がない場合があると思います。そういうときには、自分で登録商標を取得することも可能です。
ここでは自分で登録商標を取得する方法、つまり商標登録出願をする方法について、詳細に解説します!
登録商標を取得するには?
登録商標を取得するには、特許庁に対して、商標を取得するための手続きを行う必要があります。これを商標登録出願と言います。
商標登録出願する方法は主に2つあります。
- 専門家である弁理士に依頼する
- 自分で手続きを行う
弁理士に依頼すれば、どのような商標(商標権)を取得したいかヒアリングを行った後に、適切な権利を取得するために尽力してくれます。また、ビジネスにおける知的財産に関する有益な情報も提供してくれることでしょう。自分の周りに専門家を持っておくことはビジネスをする上でとても重要になります。そういう点でも、弁理士に依頼することは価格以上の価値を得ることができるため、おすすめできる選択肢です。
しかし、弁理士に依頼するとそれ相当の報酬を支払う必要があります。その金額は取得したい商標の権利の内容によって幅がありますが、数万円は必要になります。
一方、商標登録出願は自分で行うことも可能です。
自分で手続きを行う場合、様々な情報を調べたり、人に聞いたりする必要があるため、それなりの労力と時間を要しますが、費用の点では特許庁に支払う手数料だけで済むため、安価になります。
そして、商標登録出願自体は、思っているよりも簡単に、自分で商標登録出願をすることが可能です。
以下に商標登録出願に必要な準備と手続きの流れを解説していきます!
Step 1 : 出願する商標を決める
商標登録出願をする際には、「商標登録を受けようとする商標」を願書に記載する必要があります。この「商標登録を受けようとする商標」は基本的には、実際に使用する商標を記載することが原則となります。ただ、文字だけからなる商標の場合は「標準文字の商標」として出願することが可能です。それ以外に、商標の制度上、様々なタイプの登録商標を取得することができます。例えば、音の商標や色彩のみの商標などありますが、そのような特殊な商標以外の商標をここでは「通常の商標」と呼びます。
通常の商標
文字だけのもの、図形だけのもの、文字と図形から構成されるもの、などがあります。
例えば、商品の名前とロゴのイラストが一体となったデザインのように、図柄と文字からなる商標が該当します。
標準文字の商標
単にフレーズそのものだけの登録商標を取得したい場合に出願します。つまり、デザインは権利範囲に入れないということになります。
デザインが権利範囲に含まれないとなると、権利範囲が狭いと勘違いしてしまいそうですが、そうではなく、そのフレーズそのものの権利が取得できるため、効果的な商標になり得ます。
特にデザインを定めていなかったり、今後使用するデザインが変更となる可能性がある場合は、標準文字の商標で出願するのが良い場合があります。
「標準文字の商標」についての解説は以下の記事で詳細に解説していますので、こちらをご覧ください。
Step 2 : よく似ている他人の商標を調べる
登録商標を取得するためには、特許庁による審査を受ける必要があります。
特許庁による審査では、様々な観点で出願した商標が登録しても問題がないかをチェックされます。特に、他人の商標との関係は重要で、すでに登録されている商標と同じような商標で、同じようなものに使用するものの場合は、出願した商標は登録されません。つまり、他人の商標とバッティングしていたらダメということになります。
せっかく高い費用を払って出願しても、他人の商標の存在が原因で登録できないことになるのは出願費用がもったいないことになるため、事前に登録できそうか確認しておくことが重要です。また、自分の商標を使うことで、他人の商標権を侵害していないかを確認する意味でも他人の登録商標を調べておくことはとても重要です。
最も簡単に他人の商標を確認する方法は、特許庁(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)のJ-PlatPat 特許情報プラットフォームを利用します。
詳細な確認方法は以下の記事で詳細に解説しています。
もし、よく似た他人の商標を見つけた場合は、指定商品・指定役務もバッティングしているかどうかを確認し、指定商品・指定役務もバッティングしている場合には、出願する商標を変更するか、別の指定商品・指定役務を検討する必要があります。
いずれにしても、他人のよく似た商標を見つけたら、その内容をしっかり把握しておくことはとても重要です。
この他に、バッティングしている他人の商標をつぶす方法もありますが、これについては難易度が高いのでここでは割愛します。
ただ、自分の商標が他人の商標と類似しているか否かの判断は難しい場合があります。そのような時には、弁理士に相談することをオススメします。ぜひ、本記事の著者にお気軽にご相談ください!
Step 3 : 何に商標を使うかを決める(指定商品・指定役務を決める)
登録商標は、「商標そのもの(商標登録を受けようとする商標)」と「何に対して商標を使うか(指定商品又は指定役務)」のセットで権利が決まります。
指定商品とは、商標を使う商品のことをいいます。一方、指定役務とは、商標を使うサービスのことをいいます。
自分が販売する商品であれば、指定商品を選択しますし、自分のお店の名前であれば、指定役務を選択することになります。
商標登録出願をする際にも、 【商標登録を受けようとする商標】に加え、【指定商品又は指定役務】というものを指定して願書に記載しなければなりません。
指定商品・指定役務について、以下の記事で詳細に解説しているので、そちらをご参照ください。
Step 4 : ジャンル(区分)を決める
指定商品や指定役務に加えて、それらのジャンルを決める必要があります。商標の世界では区分といいます。
この区分の数によって、特許庁に支払う必要のある費用が決まります。
現在のところ、区分は第1類から第45類まであります。
第1類〜第34類:商品
第35類〜第45類:サービス
自分の商品やサービスの内容がどの区分に一致するかよく検討する必要があります。
どのような商品・サービスが区分として分かれているか、以下の記事で詳細に解説しているので、そちらをご参照ください。
Step 5 : 願書を準備する
ここまでのステップで商標登録出願するにあたり必要な情報が揃ったことになります。
Step 2の他人の商標を確認し、類似している商標がないと判断できた場合、いよいよ特許庁に出願するための願書「商標登録願」を作成します。
記載する内容は決まっており、それほど多くない項目を埋めていくだけなので、非常に簡単です。
Word形式のテンプレートはこちらからダウンロードしていただけます。
商標登録出願の願書テンプレート
願書の書き方はこちらの記事で詳細に解説していますので、ご一読ください!
Step 6 : 特許印紙を購入する
区分の数が決まっているため、商標登録出願に必要な金額が算出できます。
3,400円+(区分数×8,600円)
1区分なら12,000円、2区分なら20,600円、3区分なら29,200円・・・となります。
紙面の郵送によって出願する場合は、必要な金額分の「特許印紙」(※収入印紙ではありません)を購入します。
ある程度規模の大きな郵便局で購入できます。規模の小さな郵便局では取り扱っていない場合があります。
インターネット経由で出願することもできます。この場合はクレジットカードを利用できます。ただし、インターネット出願するにはマイナンバーカードが必要であったり、セットアップが煩雑であるため、頻繁に商標登録出願しないのであれば、紙の郵送による出願をおすすめします。
登録商標を取得するための費用についての詳細はこちらの記事をご参照ください。
Step 7 : 願書を発送する
必要な額の特許印紙を貼り付けた願書が完成したら、封筒に入れて以下の住所に発送します。
〒100-8915
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
特許庁長官 宛
宛名面(表面)余白に「商標登録願 在中」と記載して、書留・簡易書留郵便・特定記録郵便で送付します。
Step 8 : 電子化手数料を振り込む(紙で出願した場合)
紙面で出願した場合には、特許庁で願書の内容を電子データとして入力してくれます。出願人はその手数料を納付する必要があります。
願書が特許庁で受理されてから2週間ほどすると納付書が郵送されてきます。
その納付書で郵便局などで納付するようにしてください。
電子化手数料の金額は、以下のとおりです。
2,400円+(枚数×800円)
願書の枚数が1枚であれば、3,200円、2枚であれば4,000円となります。
これを納付することによって、出願手続きは完了となります。
出願手続き後について
識別番号通知
初めて商標登録出願した場合、願書を送ってから数週間後に、「識別番号通知」というハガキが届きます。
この識別番号というのは、出願人に対して自動的に付与される番号です。次回出願する時にはこの番号を願書に記載する必要があります。
出願番号通知
出願が受理されると、固有の出願番号が付与され、「出願番号通知」というハガキが届きます。
自分の出願を特許情報プラットフォーム J-PlatPatで見る場合には、この出願番号を入力することで検索することができます。また、弁理士に相談する際にもこの番号を伝えることで、中身を見てもらうことができます。
拒絶理由通知書・拒絶査定
特許庁による審査の結果、出願した内容では登録できないと判断された場合には、「拒絶理由通知書」が届きます。この拒絶理由通知書には、どういう理由で登録できないのか記載がされています。場合によってはその解消法についても言及されている場合もあります。
どのような基準で審査されるかについては、以下の記事で簡単に紹介しています。
拒絶理由通知書を受領した場合の対応策としては、出願内容を修正する「手続補正書」や反論などを行う「意見書」を特許庁に対して提出することで対応します。
出願内容を修正することは可能ですが、【商標登録を受けようとする商標】自体を修正することは、基本的にはできませんので注意が必要です。
拒絶理由通知書に対応しなかった場合や、対応しても拒絶理由が解消できなかった場合には、「拒絶査定」という書類が届きます。これにより登録ができなかったことになります。厳密にはさらに争うことも可能ですが、覆る可能性は低いです。
拒絶理由通知書が届いた場合には、自力で対応することは困難だと思いますので、ぜひ、専門家である弁理士に相談してください。
登録査定
特許庁による審査の結果、出願した内容に問題がなく、登録できると判断された場合、「登録査定」が届きます。
この段階ではまだ商標は登録されておらず、商標権は発生していません。登録料を納付したら晴れて登録商標が取得できます。登録料を納付してから数週間後に「商標登録証」が届きます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
それほど難しいことはないのではないかと思いますので、ぜひ、ご自身で商標登録出願にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
それでもやはり難しそうと思われた方は、ぜひ、本記事の著者の弁理士にご相談ください!親切・丁寧にご相談に対応させていただきます。