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著作権で守られないものでも、他人が手間をかけて作ったものを丸ごと真似して商売にすれば、賠償の責任を負うことがあります。2026年10月、最高裁判所がバンドスコア(バンド演奏用の楽譜)の模倣をめぐる事件で、そのことを改めて示しました。「著作権がなければ何をしてもいい」わけでも、「著作権がなければ何もできない」わけでもありません。
相談を受けていて一番多いのは、実は「何でもかんでも著作権がある」という勘違いです。私たち弁理士や弁護士は、そもそも著作物にあたるのか(著作物性があるのか)を検討するところから始めます。それが前提なのですが、何でも著作権を気にされる方は一定数いらっしゃいます。
ですから、今回の楽譜についても、当然著作権があると思われる方は多いでしょうし、それは不思議なことではありません。逆に「これは著作物にはあたりませんよ」とお伝えすると驚かれますし、「どんなものに著作権が発生して、どんなものに発生しないのか、よく分からない」という感想を持たれる方も多いという温度感です。
一般の感覚と法律の考え方には、ずれがあって、一般の方には、「世の中にあるものは、ほとんど著作権で守られている」「少し手を加えれば、自分のものになる」と思われていることが少なくありません。ここが、多くの方の感覚とずれやすいところです。
「どこまで著作権があるのか、よく分からない」と感じるのは、とても自然なことです。今回の事例はどうでしょうか?バンドスコア(楽譜)には著作権がないにもかかわらず、模倣で賠償の判決が出ました。なぜ、このような判決が出たのか紐解いていきましょう。
著作物の定義は、人間の思想や感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項1号)です。この「創作的かどうか」が一つのキーになります。
曲そのもの、つまりメロディや歌詞が著作物であり、著作権が発生することは疑いのない事実です。一方、楽譜は、曲があれば機械的に1対1で落とし込めるものです。創作した結果を譜面に落とし込んだだけなので、楽譜そのものには著作物性がないと考えられています。
文字についても、タイプフェイス(書体)の著作物性が争われた事件(ゴナ書体事件・最高裁平成12年9月7日判決)があります。最高裁は、印刷用の書体が著作物になるには、従来の書体に比べて顕著な特徴を持つ独創性と、それ自体が美術鑑賞の対象になり得る美的特性が必要だとして、著作物性を認めませんでした。楽譜と似た話だと考えています。
データも同じです。データそのものは、文字列などを1対1で対応させて落とし込んだものなので、著作権はありません。一方で、創作的な画像や文章には著作権が発生します。さらに、データベースは、どういう構成でデータを保存するのかという点で、データベースの著作物(著作権法12条の2)として保護されます。

今回の事件(最高裁判所第二小法廷 令和8年10月9日判決、令和6年(受)第2078号)で問題になったのは、楽譜出版社が手間をかけて作ったバンドスコアを、ウェブサイトの運営会社が真似して公開していたことです。
模倣した曲は579曲、期間は約10年にわたります。誰が見てもやりすぎだと分かると思いますし、完全にオリジナルを作った人の気持ちを考えていない、と言わざるを得ません。
運営会社は、出版社のバンドスコアを購入し、自分たちで曲を聴き取る作業(採譜)をせずにほぼ同じ楽譜を作り、自社サイトで無料公開して広告収入を得ていました。一審の東京地裁は模倣を認めず出版社の請求を退けましたが、二審の東京高裁(令和6年6月19日判決)は模倣を認め、約1億6900万円の賠償を命じました。最高裁は運営会社側の上告を退け、裁判官4人全員一致で、この判断が確定しました。
最高裁の判断は、あくまで民法の不法行為(民法709条)の話です。ですから、私としては「妥当というか、そうなるよね」という受け止めです。ただ、著作権がなかったら何もできないのかと言われると、そうではない。そのことが改めて示されたのは、意義深いと思います。
最高裁は以前(平成23年12月8日判決)、著作物にあたらないものを利用しても、原則として不法行為にはならないと示していました。今回は、その例外にあたる「特段の事情」があるとして、運営会社のやり方は自由競争の範囲を逸脱して出版社の営業を妨害し、営業上の利益を侵害したことが考えられます。
参考にするのと、やりすぎの真似との間に、明確な基準はありません。最終的には総合的に評価して判断することになるので、難しいところです。
そこで一つの考え方として、反対の立場になったときにどう思うか、を考えてみてください。当事者にとっては、これが一番イメージしやすいと思います。相手の気持ちに立って考えることは忘れがちですが、とても大事なところです。
「どこまでならセーフですか?」という質問をよくいただきます。そのときは、「逆の立場に立って、どこまでなら許容できるか考えてみてください」とお伝えしています。
バンドスコア事件の最高裁判決では、次のような事情が総合的に見られているとされています。
楽譜を買って、その内容を細かく真似していたこと(曲の数も多く、長期間にわたって続いていたこと)
無料で公開し、広告収入で運営を続けていたこと。その運営は、本来かかるはずの制作負担を免れた上で成り立っていたとされたこと
出版社の顧客を奪い、営業に大きな悪影響を与えたこと
そうした影響を、運営側が分かっていたこと
ここで大事なのは、「無料で公開した」「広告収入を得た」ことだけで違法になったわけではありません。制作費を払わずに真似して、その結果相手の商売を直接脅かしたこと、そのやり方が公正な競争の範囲を超えていたことが重く見られています。
著作権で守られないものは、実は世の中にいっぱいあります。たとえばイラストの作風や、最近いろいろと問題になっている声もそうです。(声については、パブリシティ権で守られた判決もあります)そういったものを商売の道具にしている方、ビジネスにしている方は、いろいろな工夫が必要です。
まず、「これは私の作品である」「このスタイルが私のスタイルである」ということを、広く認知させていく必要があります。
そして、守り方は権利だけではありません。先行者利益や知名度が、権利以上に強いガードになる場合もあります。そこに行き着くまでには苦労も多いと思いますが、どうすれば自分のポジションを築けるかを工夫する必要があります。有名になればいいという話ではなく、広告で知名度を上げていくなど、方法はいろいろあります。
もちろん、契約で縛れるところは契約で縛ればいいと思います。ただ、必ずしも契約で縛れないことも多々あります。自分の成果物のうち、どこが権利で守れて、どこが守れないのかを整理するところから、弁理士に相談していただくのも一つの方法です。
私がいつも言っているのは、「相手のふんどしでビジネスをするのは早いうちに卒業して、オリジナリティで勝負した方がいいですよ」ということです。
ビジネスを進めるうえで、他人の知名度や既存のブランド力にあやかることは、一見すると手っ取り早く集客や売上につながる魅力的な手段に見えるかもしれません。しかし、他人の成果やふんどしに頼ったやり方には、本質的な「発展性」がありません。
持続可能性の欠如
他人のブランドや成果物に依存している状態は、いわば他人の土俵で相撲を取っているようなものです。元となる相手が方針を変えたり、プラットフォームの規約が変わったり、あるいは関係性が崩れたりした瞬間、自分のビジネスの基盤が一気に揺らぐという大きなリスクを抱えています。
信頼とファンが育たない
顧客は「その人・その会社独自の価値」ではなく「有名だから」「流行っているから」という理由で集まっているため、長期的なロイヤルティ(愛着)やファンが定着しにくくなります。価格競争や模倣に巻き込まれた際にも、独自の強みがないため簡単に淘汰されてしまいます。
オリジナリティで勝負するということ
一方で、早くそうした依存体質から脱却し、自分自身のアイデアや独自性(オリジナリティ)で価値を生み出すビジネスへ転換していくことは、中長期的な安定と成長に直結します。
最初は認知を得るまでに時間や労力がかかるかもしれませんが、「この人にしか頼めない」「この独自の視点やクオリティが良い」というポジションを築くことができれば、外部環境の変化に左右されない強固な基盤となります。
著作権で守られない領域が多いビジネスやコンテンツ制作であっても、「誰かの真似」ではなく「自分たちの価値の追求」に軸足を置くことが、結果的に最もリスクが低く、持続可能なアプローチの一つの方法ではと思います。
Q. 楽譜には著作権がないのですか?
A. 曲そのもの(メロディや歌詞)には著作権があります。一方、既存の曲を機械的に1対1で譜面に落とし込んだ楽譜は、創作的な表現ではないため、楽譜そのものには著作物性がないと考えられています。
Q. 著作権がなければ、真似されても何もできないのですか?
A. いいえ。今回のバンドスコア事件のように、著作権で守られないものでも、真似のしかたによっては民法の不法行為として賠償が認められることがあります。
Q. どこまで真似したらアウトになりますか?
A. 明確な基準はなく、最終的には総合的に判断されます。迷ったときは、逆の立場に立って「どこまでなら許容できるか」を考えてみてください。
Q. データに著作権はありますか?
A. データそのものには著作権はありません。ただし、データをどういう構成で保存するかに創作性があるデータベースは、データベースの著作物として保護されます。
Q. バンドスコア事件では、いくらの賠償が命じられたのですか?
A. 二審の東京高裁が命じた約1億6900万円の賠償が、最高裁で確定しました。579曲の楽譜を少なくとも約6年半にわたって真似し、無料公開して広告収入を得ていたことが、出版社の営業を妨害したと判断されました。
Q. イラストの作風や声は、著作権で守られますか?
A. 作風(スタイル)や声そのものは、著作権では守られにくいものです。「これは自分の作品・スタイルだ」と広く知ってもらうこと、契約で取り決めること、先行者としての知名度を築くことが守りになります。声については、パブリシティ権で守られた判決もあります。
記事の執筆者

西山 玄一郎
にしやま げんいちろう
どんぐり特許商標事務所/代表弁理士
弁理士登録番号 第22420号
大手製薬会社で創薬研究、知的財産部で特許・意匠の出願・調査・訴訟に従事し、米国の特許事務所・法律事務所へ留学。ITベンチャーの起業・事業売却、AI創薬ベンチャーのサポートを経て、2021年にどんぐり特許商標事務所を開業。「権利をとる側」と「事業をつくる側」の両方の視点から、個人事業主・小規模事業者の知的財産をサポートしています。

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